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【スポーツ】アスリート 就職氷河期 「アスナビ」内定者 ピーク時の6分の1

2022/03/19

コロナ、東京五輪終了で暗転

 トップアスリートの就職活動が急速に厳しくなっている。トップ選手の就職支援制度「アスナビ」で企業の内定を得た選手は本年度は11人(3月18日時点)で、ピーク時の約6分の1。東京五輪が終わって企業のスポーツへの関心が減ったことに加え、長引くコロナ禍が暗い影を落としているとみられる。

 アスナビは「トップアスリートの就職支援ナビゲーション」の略で、日本オリンピック委員会(JOC)が窓口となり、就職を希望するトップ選手と、採用を検討している企業を結び付ける制度。不況で採用企業が減ったことを背景に2010年から始まった。選手は競技に専念でき、企業側には知名度アップにつながるメリットがある。これまでに341人が就職先を見つけた。

 当初は低調だった企業の採用は、東京五輪の開催が正式決定した13年度に急増した。一気に前年度比で4倍の16人が採用され、以降はほぼ右肩上がり。18年度は最多の62人にのぼった。

 だが、もともと五輪開催の予定だった20年度になると急落し、21年度は14人に減少。本年度はさらに厳しく、東京五輪の開催が決まる以前の水準に近くなった。「コロナで企業の雇用環境自体が悪くなった。その中で、競技優先のアスリートを雇うというのはなかなか難しい」とアスナビのディレクター中村裕樹さん(63)はみる。

 JOCは、過去に採用実績がある200社超に声を掛けるなど、何とか選手の就職先が見つかるように奔走する。中村さんは「アスナビだけですべて解決できるとは考えていない。競技団体のつてを頼るなど、総力戦でやっていく」と話している。(多園尚樹)

    ◇

トランポリン 海野選手
「覚悟してた」 メダリスト苦戦

 アスリートに厳しい世相。トランポリン世界選手権で2019年に個人6位となり、昨年の男子団体で銀メダルに輝いた海野大透(うんの・ひろと)=静岡産業大、静岡市出身=も、アスナビで就職先が見つからず競技をどうやって続けるか悩んだ一人だ。

 アスナビに登録したのは昨年4月。ほどなく現実の厳しさを知った。採用に興味がある企業とのオンライン形式の説明会。過去にアスナビで就職した先輩の話では「(説明会に)50社くらいが出席していてすぐに決まった」と聞いていた。だが「僕のときは5社ぐらい。トランポリンはマイナーだし、コロナで厳しいのは覚悟はしていたけど」と振り返る。

 世界を目指すだけに競技に百パーセント集中できる環境が理想だったが、声はかからず。仕事と練習の兼務も覚悟し始めた。救いの手が差し伸べられたのは昨秋。以前から世話になっていた治療院から、静岡市のビルメンテナンス業「サン」を紹介してもらえた。しかも競技だけに打ち込める好条件だった。

 日本代表には他にもアスナビで就職できなかった選手がいるという。「僕はラッキーだった。ありがたさしかない」。競技で結果を出すことが恩返しとなる。

2019年の世界選手権で演技を終え、ガッツポーズする海野大透=有明体操競技場で
2019年の世界選手権で演技を終え、ガッツポーズする海野大透=有明体操競技場で