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「安い」を追う/賃上げ税制 看板倒れ

2022/02/16

中小の6割赤字 恩恵薄く

 長年続く賃金の停滞から抜けだそうと、岸田文雄政権は2022年度税制改正で、賃上げを実施した企業の法人税額を軽くする優遇税制を盛り込んだ。賃金の安さが指摘される中、企業に賃上げを強く促す狙いだが、日本企業の約六割が赤字経営と、恩恵を受けられるのは少数に限られる。中部地域の中小企業からも「税の優遇が給料を上げる動機にはならない」との声が上がる。(平井良信)

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 ドアや床など住宅の内装材を加工製造するアサイウッドマテリア(愛知県弥富市)の浅井勇詞社長(50)は昨年以降、原材料の輸入材や国産材の価格が高騰する「ウッドショック」に頭を悩ませる。価格が一年前の二倍近くに上がった木材もあり、上昇分をすべて住宅メーカーなどへの納入価格に転嫁するのは難しい。「電気やガスの料金も上がっており、経営環境は厳しい」と漏らす。

 「成長と分配の好循環」を掲げる岸田政権は、今春闘で「3%超」の賃上げを企業に求めており、優遇税制で後押しを狙う。浅井社長も「社員の生活を守るため、賃上げの重要性は理解している」と毎年、従業員約五十人の昇給に取り組んできた。だが、最近は原材料高が深刻で、利益を大きく圧迫している。「控除の効果は薄く、優遇税制があるから賃上げをしようとはならない」と語る。

 中小企業が最大40%の税額控除を受けるには、従業員給与を前の年度より2・5%以上増やした上で、教育訓練費を10%以上増やす必要があり、ハードルが高い。同社は新型コロナウイルス禍で海外からの実習生が減り、人手不足に陥っている。浅井社長は「教育訓練に時間とお金を割く余裕はない」と、制度の使い勝手の悪さを指摘する。

 国税庁の調査によると、国内企業のうち99%超を占める中小企業の六割が赤字で法人税を払えず、賃上げをしても控除を受けられない。安倍晋三政権下でも一三年度から賃上げ促進税制が導入されたが、適用率は一割を大きく下回り、賃上げ効果は限定的だった。政府は今回、赤字企業が賃上げした場合、設備投資額に補助金を出す方針だが、今後も継続的な支援を打ち出さなければ中小企業の賃上げは定着しそうにない。

 第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「中小企業は『赤字になるかもしれない』という不安が先行し、固定費を増やす賃上げに踏み切れない」と指摘。「税制だけで賃上げを促すのは限界がある。企業の売り上げや収益を高める成長戦略とセットで考えるべきだ」と強調する。

【賃上げ税制】 一定割合以上の賃上げや教育訓練費の増額をした企業に適用される。給与総額の増加分の最大30%(従来は20%)、中小企業は最大40%(同30%)を、法人税から差し引くことができる。大企業は、継続雇用者の給与総額を前年度比3%以上増加させることが要件。中小企業は、雇用者全体で1・5%以上増加と、ハードルが下げられている。

「ウッドショック」による原材料価格の高騰が影響している現場=愛知県弥富市のアサイウッドマテリアで
「ウッドショック」による原材料価格の高騰が影響している現場=愛知県弥富市のアサイウッドマテリアで