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【みえ経済】長引くコロナ禍 先行き不透明旅行需要

2022/02/03

ワーケーション普及に期待
観光地・志摩 官民が地道な誘致策展開

 休暇を楽しみながら働く「ワーケーション」の行き先に選んでもらおうと、観光地の志摩市では、官民問わない地道な誘致策が続いている。新型コロナウイルスの影響が長期化し先行きは不透明だが、新しい旅行需要として関係者の期待は高い。(阿部竹虎)

 ■移動時間も有効に

 近鉄は昨年十一月下旬の金曜日、団体専用車両「楽(らく)」を利用した「ワーケーショントレイン」を初めて運行した。大阪上本町駅を午前九時台に出発し、賢島駅(阿児町)へ。近鉄不動産の「ワーケーション研究会」に参加する企業の社員ら約五十人が乗車した。

 「楽」は先頭と最後尾の車両が二階建てで、階下のフリースペースに大型クッションを設置。パソコンを見ながら電話で打ち合わせをしたり、体を横たえて休憩したりする姿があった。通常の座席でも、乗客は広いテーブルにパソコンを置いて仕事に集中した。

 近鉄不動産はグループの宿泊施設「都リゾート奥志摩アクアフォレスト」(大王町)を拠点に二〇二〇年秋から実証実験を開始。一月末までに二十一社約四百四十人が参加し、通信環境や会議設備が整った同施設でワーケーションを体験している。近鉄不動産事業開発本部の佐保田光章本部長は「専用列車で移動時間を有効活用し『効率的なワーケーションになる』との声もあった。変化するライフスタイルに対応して発展させたい」と述べた。

 大手ゼネコンの大林組大阪本店建築事業部の堀之内雅和統括部長も今回の列車に乗り「時間外労働の上限規制に対応するのが喫緊の課題。働き方のバリエーションの一つとしてワーケーションが広がるといい」と期待した。

 ■添乗員の部屋活用

 同市磯部町の離島・渡鹿野(わたかの)島にある旅館「福寿荘」も受け入れを目指している。館内には旅行会社の添乗員用に設計された小部屋が十二室あり、気兼ねなく電話やネット会議ができる空間として注目。客が寝泊まりする部屋は廊下を挟んで反対の海側にあり、専用プランを申し込めばセットで自由に使える。

 旅館の宿泊者は新型コロナの影響が出る前の一九年は約三万三千人だったが、昨年は一万六千人だった。ワーケーションプランの利用実績はまだないものの、城山義久予約課長は「旅館として新しい利用者層を対象にしている。館内に温泉もあり、都会を離れた仕事場でストレスを軽減してほしい」と話す。

 ■日航との連携協定

 ワーケーションの受け入れ促進を柱とした連携協定を日本航空と市が締結してから、三月で一年となる。ホテルや屋外施設、廃校などを整備し、地元企業との交流や新規事業の創出を目指す方向性が協定締結時には示されたが、実行に時間を要しているという。

 昨秋、国家公務員や企業社員が参加し、海女の後継者不足などのテーマで意見を交わす「課題解決型」のワーケーションを実施する計画もあったが、感染拡大の影響などで中止に。日航系の企業から市の観光課に出向している村上康司さんは「今後も市が目指すSDGs(国連の持続可能な開発目標)に軸を置きつつ、取り組みを深化させていきたい」と話している。

    ◇

自治体の戦略や企業制度に課題
「手当」が出る先進的中小企業も

 国土交通省が昨年三月に公表したテレワーク人口実態調査によると、雇用型就業者約三万六千人のうち今後ワーケーションを「してみたいと思う」と回答した人は約37%。このうち、滞在期間として一~三日を希望する人が約半数だった。

 一方、「してみたいと思う」と回答した約一万三千人の不安、課題は「会社の制度上、ワーケーションを行うことが認められていない」が51%で最多だった。一般社団法人日本テレワーク協会の村田瑞枝事務局長は「『ワーケーション手当』を出す先進的な中小企業もあり、動きが広がっている。とにかくトライしてみるのが大事」と話す。

 受け入れる自治体側の課題について、村田事務局長は「企業研修やサテライトオフィスを誘致するのか、働く人の地方移住を増やすのかによって戦略は異なる」と指摘。「企業向けには生産性向上や雇用の確保といった利点をアピールし、個人には住居や子育て環境などの生活情報を伝えるのが重要」と強調した。

賢島駅に向かう「ワーケーショントレイン」の車内で仕事をする乗客ら=県内で
賢島駅に向かう「ワーケーショントレイン」の車内で仕事をする乗客ら=県内で
福寿荘がワーケーション客向けに活用を図る小部屋=志摩市磯部町の渡鹿野島で
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