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【経済】「安い」を追う/大手、中小 共存共栄を

2022/01/26

「新資本主義」会議委員 適正取引で賃上げ 強調

 賃金・物価とも安く低迷する日本経済が成長軌道を取り戻すには、国内の雇用者の七割を抱える中小企業の賃上げが欠かせない。岸田文雄政権が看板政策を議論する「新しい資本主義実現会議」の委員を務めるダイヤ精機(東京)の諏訪貴子社長は「大企業と中小企業の上下の関係を見直し、共存共栄を図るべきだ」と訴える。(聞き手・平井良信)

 -中小企業に賃上げが広がるために必要なことは。

 一番の課題は適正価格での取引ができていないこと。日本人は良い物を安く売ることを美徳とする価値観がある。それを変えていかなければいけない。中小企業はコストを下げる努力をしてきたが、原材料やエネルギー費の高騰で体力に限界が来ている。

 -大企業と中小企業の関係で感じる変化は。

 昔はもっとお互いの距離が近く、パートナーの関係だった。バブル崩壊やリーマン・ショックを経て、欧米型の資本主義が日本に誤った伝わり方をした影響が大きい。企業は株主のために短期的な利益を追求するようになり、下請けには原価低減の要請が強まった。間に商社が入り、メーカー同士の直接の意思疎通が減った。日本は資源が乏しい国なので、大企業と中小企業の共存共栄で技術革新を起こすべきだ。

 -政府や経済界は、中小企業の利益圧迫につながらないよう取引適正化に注力する姿勢です。価格転嫁が進む雰囲気はありますか。

 「下請けGメン」を増員して監視を強めたり、発注元企業が取引の適正化に努める「パートナーシップ構築宣言」をしたりすることは前進だ。ただ、トップが号令をかけても現場レベルでは意識は大きく変わっていない。企業は各部門ごとの独立採算制を重視し、コストを減らした社員が評価される仕組みがあるためだ。現場はどうすれば中小企業と連携して付加価値を付けられるのか、議論に力を入れた方が良い。

 -中小企業が生産性を高めるためにできることは。

 デジタル化はやみくもに行うのではなく、目的と方向性を明確化することが大切。無駄な先行投資にならないよう、段階を踏んで行うことだ。生産性が低い中小企業は再編すべきだという意見には反対だ。大事なのは経営者が会社や技術、従業員を残したいかどうか。国は補助金を出すだけではなく、中小企業の経営やノウハウの支援を重視してほしい。

    ◇

 すわ・たかこ 1971年生まれ。専業主婦だった32歳の時、急逝した父の後を継ぎ、精密金属加工のダイヤ精機社長に就任。低迷していた町工場を再建した経営手腕が注目された。中小企業経営者の視点を取り入れるため、昨年秋から政府が開く「新しい資本主義実現会議」の委員に選ばれた。2018年から日本郵便社外取締役。

【新しい資本主義実現会議】 岸田政権の看板政策である「成長と分配の好循環」を議論する。経済団体トップや大学教授、経営者ら15人が有識者として参加し、7人を女性が占める。昨年11月にデジタルなど成長分野への投資や賃上げ促進税制などを柱とする緊急提言を公表。今年春までに成長戦略の方向性と実行計画を取りまとめる予定。