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【くらし】広がる 産業保健師 心身守る 職場の味方

2022/01/17

 医療の専門知識を持つ保健師を活用する企業が増えている。背景には、働き手の体と心の健康を守り、業績の向上につなげようという考え方の広がりがある。健康診断後の保健指導といった従来の仕事に加え、コロナ下の今は感染対策や復職支援なども担うように。働き手にも会社にも有益な産業保健師の役割を見る。(海老名徳馬)

◆禁煙や健康相談
◆専門的に関わり

 首都圏でスーパー三十八店を展開するワイズマート(千葉県浦安市)は昨年三月、喫煙場所を全て撤去し、敷地内の全面禁煙に踏み切った。小売業者が加入するデパート健康保険組合(東京)の統括保健師で、同社の健康増進に携わる冨山紀代美さんは「時間をかけて禁煙のメリットを理解してもらった」と振り返る。

 冨山さんが同社の禁煙に携わり始めたのは二〇〇八年。社内でアンケートを取ったところ、八割が何らかの喫煙対策を望んでいることがきっかけだった。

 翌年、全社員が集まる決算会議の後で、たばこの害について話す機会を得た。以降、同社の衛生委員会に冨山さんがオブザーバーとして加わって禁煙プログラムを作ったり、喫煙者と面談をしたりなどを続けた結果、徐々に喫煙者は減っていった。「本人の体への影響に加え、受動喫煙の問題もある。たばこを吸うたびに席を離れれば労働生産性の低下も考えられる」などと説明してきたという。

◆ワクチン接種や感染対策も担う

 保健師になるには、看護師と保健師両方の国家試験に合格することが必要だ。保健師を企業に紹介するエムステージ(同)の石倉恭子さん(55)は「従業員個人と組織の両方に働き掛けるのが産業保健師の役割」と説明する。

 産業医と協力して携わる業務は多岐にわたる=表。健診の受診呼び掛けや保健指導、職場での健康教育や休職者の復職支援、メンタルヘルス対策…。コロナ禍以降は、感染対策やワクチンの職場接種、感染後の復帰支援などの仕事も加わり存在感は増している。

 ただ、労働安全衛生法に基づき、五十人以上の従業員がいる企業は置かないといけない産業医と違い、産業保健師は設置の義務がない。全国で働く保健師は五万~六万人だが、保健所など公的機関に勤める人が多い。日本産業保健師会によると、企業で働くのは三千~四千人にとどまる。

 一方で、同会会長の岡田睦美さんは「数は少しずつ増えている」と手応えを話す。〇八年の特定健診(メタボ健診)、一五年のストレスチェック制度導入、国を挙げた働き方改革推進などが背景にはある。正社員として保健師を雇用する例が多い大企業に加え、中小でも業者と契約を結び、定期的な派遣を依頼する動きが広がりつつある。

 岡田さんが勤務する富士通(同)では、百六十人以上の保健師と看護師が、グループ全体で七万人いる働き手の健康管理を担う。同社の担当者は「仕事のパフォーマンスはスキルと健康のかけ算。普段の相談などを通じて、一人一人の働き方や心身の状態を知る保健師の存在は価値がある」と説明。七十歳までの就業確保が企業の努力義務となる中、「力を発揮してもらえるよう、高齢社員の健康を維持することも重要」と指摘する。

 同会では産業保健師の認知度を上げるため、法制化の検討を含め、国などに要望を続けている。岡田さんは「特に中小企業では、まだ認知度が低い。法的な基盤を強化し、サービスを行き渡らせたい」と話す。

富士通の社内で、産業医(右)と健康相談の準備をする産業保健師の岡田さん=川崎市で(本人提供)
富士通の社内で、産業医(右)と健康相談の準備をする産業保健師の岡田さん=川崎市で(本人提供)