2009/02/12
カクテルの味 客と探す
転勤族の記者にとって、かけがえのない空間がある。バーだ。新しい土地に引っ越したばかりで心細い夜には決まって訪れた。カウンター越しにこちらの気持ちを巧みに察し、すてきなお酒で癒やしてくれたバーテンダーたち。感謝を込めて、彼らの仕事に挑んだ。
岡崎市伝馬通で、正統派のバー「エンジェルシェア」を営む本多秀行さん(42)の元を訪ねた。一九九九年に本場ロンドンの名門「サヴォイホテル」で開かれたバーテンダーコンクールで準優勝したという名手だ。
日ごろあまり着ないダークスーツに身を包み、カウンター内に進む。まずはボトルを開ける基本動作から。が、その時点で既にどうして良いか分からない。右手でビンの底を支え、左手の指でふたを回すお手本を見せてもらったが、自分でやると手が震えて、どうにも危なっかしい。
「バーテンダーの仕事って格好付けてると思うよね。でも実は全然格好つけていない。一番手間が省けた形。底辺の美学だね」。心構えを聞いて気を取り直し、次の課題へ。
辛口のカクテルを作る「ステア」という技。ミキシンググラスに入れた酒や氷をスプーンで優しくかき混ぜる。スプーンを中指と薬指で挟んで回転させようとしたが、うまく回らない。ついに、氷が溶け出してしまった。
しょんぼりしていると、居合わせた常連客が甘口カクテルのホワイトレディーを注文。あこがれの道具シェーカーに、材料のジンと、キュラソー、レモン、氷を入れて準備完了。「シェーカーは打ち出の小づち。おいしくなれとだけ願ってふれ」。助言を胸に、必死に振った。
「プロに比べれば、気泡がやや少なく、手応えに欠けるが、初めてにしては及第点」。お客さんのありがたい感想に達成感を味わった。「答えのない空間。重要なのは、技や知識だけじゃない。おいしいカクテルは、お客さんと一緒に探すもの」。本多さんが大切にするおもてなしの心をかみしめた。(相坂穣)
【メモ】資格はなく、バーにアルバイトで勤務して、技術を習得する人が多い。名古屋周辺のバーの時給は1000-1500円が主流。日中は別の仕事をして、1000万円を超える独立資金を蓄える若手も。日本バーテンダー協会に入り、検定試験を受けたり、競技会に出場したりして腕を磨くこともできる。入会金5000円、会費は月額2000円。
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