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【暮らし】心のケアから再出発 NPO講座育児の悩みも「共有」

2021/10/25

 新型コロナウイルスが、女性に重くのしかかっている。解雇や雇い止め、自宅待機…。生活の苦しさは、精神的な余裕も奪う。別の仕事を見つけようにも気力がわかなければ、特に子育て世帯の場合、影響は深刻だ。「まずは前向きになってほしい」と、心のケアに重きを置いて就労を支援するNPOの例から考える。 (海老名徳馬)

 ◇ ◇ ◇

 都内で中三、小六の娘二人を育てながら、六月から事務職の派遣社員として働く女性(46)。収入は手取りで月二十三万円ほどだ。「今後は教室に通ってパソコンの技術も身につけたい」と表情は明るい。

 正社員として以前勤めていた運送会社は、コロナ禍で物流が減った影響から、仕事が激減。休業手当などの説明は何もないまま自宅待機を余儀なくされ、手取り約十五万円だった給与は半分に落ち込んだ。

 夫のモラルハラスメントやDVから逃れるため、四年前に離婚。もともと生活は苦しかった。転職しようとハローワークにも行ったが「これといった資格や技能はない。子育てで働いていなかったブランクもある」。先が見通せず、孤独感にさいなまれた。

 立ち上がる力になったのが、困窮子育て世帯を支援するNPO法人キッズドア(東京)が、一月から無料で始めたオンラインの就労支援講座「わたしみらいプロジェクト」だ。第一期は二~四月の全六回で一回九十分。性別の制限はないが参加者はほぼ女性で、九割以上がひとり親世帯だ。

 精神面をケアし、自己肯定感を高めることが大きな目的。「仕事や育児でモヤモヤすることは」という講師の問いに、まずは一人一人書き出してみる。自分を見つめ、未来像を描く第一歩だ。講師の「失敗しても大丈夫」の励ましが背中を押す。悩みごとを打ち明け合う時間では、抱えていたつらさを初めて言葉にできて、涙を流す人も多い。

 少しずつ心を落ち着かせた上で、強みを訴える履歴書の書き方やプレゼンテーションの方法などを学んでいく。化粧品会社の協力で印象を高めるメークの実習も=写真、ポーラ提供。「化粧は久しぶり」と参加者には笑顔が漏れる。

 講座は働く人も参加しやすい平日夜か土曜。来年三月までに計三百人の受講を見込む。十月スタートの第三期からは、厚生労働省の助成金千八百万円余を受けた。第一期の受講生五十二人のうち、新たな仕事に就いた人は十一人を数える。

 「これで娘を塾にも行かせられる」。女性は今、前を向いて歩いている。

◆労働者減 男性の2倍超

 総務省の労働力調査によると、初めて国の緊急事態宣言が出された2020年4月の女性労働者は、前月比で74万人も減少。男性35万人の2倍を超える。多くが雇用の調整弁として使われがちな非正規とみられる。

 比較的低所得のひとり親の母子・父子家庭への就労支援の一つに、高等職業訓練促進給付金がある。毎月一定の給付を受けながら、条件のいい就職に役立つ資格を取ってもらう。従来の看護師や介護福祉士、保育士などの国家資格に加え、本年度からデジタル分野の民間資格も対象となった。

 ただキッズドアが1月、これまで支援をしてきた男女約650人に聞いた調査では、高等職業訓練促進給付金について「知っているが利用していない」が65%。「わたしみらい-」を担当する町田裕輔さん(28)は「そもそも働いている人は、訓練に通い続けるのが難しい」と指摘する。

 加えて、国やハローワークなどの就労支援を使った経験がある人も2割弱。町田さんは「パソコンなどインターネット環境がない人もいる。支援が必要な人に支援策の存在が知られていない面がある」と訴える。