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【医療】歯科衛生士足りない! NPO取り組み 復職支援へ学びの場

2021/09/28

現職の技術向上も

 歯科医師の治療を助け、歯石除去やブラッシング指導を担う歯科衛生士。歯周病や虫歯などの予防には欠かせない存在だが、女性が多いため、結婚や出産を理由とした離職が後を絶たず人手不足が深刻だ。そうした中、名古屋市の歯科医師や専門学校教員らがNPO法人を設立。復職や、働きながら技術の向上を目指す歯科衛生士の学習支援に乗り出した。(植木創太)

 ◇ ◇ ◇

 JR名古屋駅にほど近い場所にある「Sirius(シリウス)」。道路を挟んだ向かい側で開業する、すぎうら歯科クリニック(同市中村区)院長、杉浦洋平さん(44)が昨年十月、名古屋医専教員で歯科衛生士の伊藤直美さん(53)らと開いたトレーニングスクールだ。

 普段は同クリニックのスタッフが研修に使う場所だが、希望すれば復職を目指す人や現職の歯科衛生士、学生らも無料で利用できる。コンセプトは「地域の歯科衛生士が集い、気軽に教え合う場」。顎の模型を使った歯のブラッシングや歯石除去などの練習のほか、診療時間外なら同クリニックで治療用の椅子や機械、器具を用いた実践さながらのトレーニングも。最新の治療情報や接遇マナーに関する勉強会も有料で月一回ほど開かれている。

 コロナ下で大勢が集まるのは難しい状況が続くが、トレーニングや勉強会で訪れたのは百人ほど。その一人、愛知県日進市の女性(34)は昨年十月、ベテランの歯科衛生士が講師を務めた歯周病の勉強会に出た。十年前、出産を機に仕事を辞め、三年後に復帰した際は現場感覚を取り戻すまで時間がかかった。復職前に地元の歯科医師会などが開く研修会への参加も考えたが、日時が合わなかった。

 「歯科医療の現場は、機械や治療法も日進月歩」と女性。勉強会では歯周病と全身疾患の関係など、最新の考え方が学べたといい、「現役の歯科衛生士にとっても、シリウスのような場は重要」と話す。杉浦さんによると、歯科医師らが音頭を取ったこうした取り組みは、都市部を中心に少しずつ広がっている。

 口の中は大腸に次いで細菌が多い。虫歯や歯周病の予防のため、細菌の塊である歯垢(しこう)をきれいに取り除けるよう歯磨きの仕方を指導するなど、口腔(こうくう)ケアを担うのが歯科衛生士だ。歯科医師の診療補助などをする歯科助手と違い、養成機関で学び、国家試験に合格することが必要。毎年五千~七千人ずつ増えており、有資格者は二〇二〇年三月末現在、二十九万人に上る。

 ただ大半は女性で、結婚や出産を機に離職するケースが多い。厚生労働省の調査では、実際に現場で働くのは十三万人。二十年前のほぼ二倍だが、有資格者の半数に満たない。一方で、超高齢社会の到来で在宅医療の重要性が叫ばれる中、歯科衛生士の需要は増すばかりだ。高齢者の死因の多くを占める誤嚥(ごえん)性肺炎は、口腔内の細菌が、唾液とともに肺に流れ込むことが原因。予防には口腔ケアが重要だ。

 現場を離れている潜在歯科衛生士に向けては、国や地域の歯科医師会などが再教育を支援したり、復職希望者の登録制度を設けたりしているが、不足はなかなか解消されない。愛知県の場合、歯科診療所当たりの歯科衛生士数は全国平均を下回る=表。

 ブランク期間の技術の進歩に加え、労働環境の厳しさも復帰を阻む。全国には七万近い歯科診療所があり、競争は年々激化。都市圏では、夜間や休日も開院する施設が多く、勤務時間や休みの条件が合わない人も少なくない。杉浦さんは「再教育と働きやすい環境の整備は二本柱」と指摘。「潜在歯科衛生士が現場に戻りやすくなることは、住民の健康につながる」と訴える。今後は、協力してくれる歯科医師や歯科衛生士らを募る考えだ。

 問い合わせは、すぎうら歯科クリニック=電052(461)7564。

「歯周病治療の移り変わり」をテーマに催された研修会の様子=昨年10月、名古屋市中村区で(Sirius提供)
「歯周病治療の移り変わり」をテーマに催された研修会の様子=昨年10月、名古屋市中村区で(Sirius提供)