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【社会】外国人労働者アプリで守る 低い人権意識 日本企業危機感

2021/09/21

トヨタなど約210社共同開発

 トヨタ自動車やイオンなど約二百十の国内企業・団体が、外国人労働者の人権を守るためのスマートフォンアプリを共同で制作することが分かった。日本で働く技能実習生らが会社に知らせず、アプリを通じて第三者機関に相談できる。国際社会や海外投資家は日本の職場環境を問題視しており、国際協力機構(JICA)が主導し待遇の改善を目指す。

 ◇ ◇ ◇

 ソフトバンクやセブン&アイ・ホールディングス、味の素、アサヒグループホールディングスなど有力企業が多く参加する。JICAと人権団体が事務局となり、アプリやポータルサイトの内容を固めた。近く開発作業に着手し、来年から実証実験を始める計画だ。

 工場などに勤務する外国人労働者が仕事の悩みを書き込み、事務局側の担当者が回答する。簡単な相談には人工知能(AI)で自動対応する機能を盛り込むほか、悪質な職場や受け入れ団体については行政への通報を検討する。JICAの担当者は「日本での生活に役立つ情報も多言語で提供したい」と話した。

 国内の外国人労働者数は二〇二〇年に百七十二万人に達し、一五年に比べ約九割増えた。日本企業が人権アプリを制作するのは、長時間労働やハラスメントが横行する実態に国際的な批判が強まっているためだ。

 米国務省は今年七月に発表した各国の人身売買に関する報告書で、日本の技能実習制度を「外国人労働者搾取のために悪用し続けている」と厳しく指摘。人権問題を含めESG(環境・社会・企業統治)を重視する海外機関投資家の日本離れが懸念されている。

 日本政府は国連の決議に基づき、昨年十月に「ビジネスと人権に関する行動計画」を策定し、企業に適切な対応を促した。金融庁と東京証券取引所も上場企業の行動指針を今年六月に改定し「人権の尊重」を求める規定を盛り込んだ。

◆消費行動変化 社会に配慮

 日本企業が外国人労働者の待遇改善に動き始めた。国際社会からの批判に加え、人権や環境に対する消費者の行動や意識変化が背景にある。アジアをはじめ世界中で人材の採用競争が激化していることも対応を急ぐ要因となっている。

 「ミキハウス」ブランドの子供服を販売する三起商行(大阪府八尾市)は昨年夏、外国人向けの労働相談アプリを導入した。対象は国内外のサプライチェーン(供給網)で合計約百七十社に上る。ミャンマーの委託先工場で過酷な労働実態が発覚したことがきっかけだった。

 民間調査によると、日本人の約六割が社会問題に配慮した商品を優先して選ぶ「エシカル(倫理的)消費」に興味を持つと回答。特に子供服は贈答品にも使われるため、同社品質管理部の上田泰三部長は「企業イメージを気にして購入する人が多い」と話す。経営上の重大なリスクと判断し、人権団体と連携して対策に取り組んだ。

 人権問題が会員制交流サイト(SNS)を通じて海外に広く知れ渡れば、外国人労働者の採用にも悪影響を及ぼしかねない。世界各国が外国人材を奪い合う中、日本の賃金は安く、働く場所として日本の優位性はすでに低下している。

 経済協力開発機構(OECD)によると、昨年の日本の平均賃金は三万八千五百㌦(約四百二十万円)。三十五カ国中で二十二位と隣国の韓国よりも下に位置する。

 今後は少子化が急速に進む中国との採用競争も見込まれる。労働問題に詳しいパーソル総合研究所は「外国人材に定着してもらうために日本企業は職場としての魅力を高める努力が求められる」と指摘した。

【ビジネスと人権】
2011年に国連人権理事会で指導原則が採択された。企業が人権を尊重する責任を果たすことを明記。企業に対し、人権方針の策定や人権侵害行為の予防・調査などを求めた。企業活動のグローバル化に伴い、新興国や発展途上国で人権問題が顕在化したことが背景にある。日本政府は昨年10月に24カ国目として「行動計画」を策定し、企業に対応を促している。