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【暮らし】休みづらい企業風土 壁に

2021/09/02

日本でも可能? 週休3日制 給与減も多様な働き方後押し

 希望する人が会社を週に三日休めるようにする「選択的週休三日制」。六月に政府が普及を図る方針を示したことから、一気に注目を浴びた。働き手の自由な時間を確保し、育児や介護、副業などをしやすくするのが目的だが、労働時間が減れば給料が減るリスクもあり、広まるかどうかは未知数だ。既に導入している企業の例から、実現の可能性を考える。(熊崎未奈)

 「SOMPOひまわり生命保険」(東京)は二〇一七年から、自分で期間を決め、週休三日を選べるようにした。育児や介護をする社員と六十歳以上の再雇用の社員が対象で、期間は一カ月から。土、日に加え平日の特定の曜日を休日にできる。育児の場合は子どもが小学三年を終えるまで、介護は必要がなくなるまで何回でも取得可能だ。

 狙いは育児や介護による離職の防止。これまでに延べ二十二人が制度を利用した。平均は七カ月間で、九割が妊娠・育児中だった。第二子出産後の昨年九月から取得中の三十代の女性は「月曜を休みにしたことで毎週三連休になり、体力的に余裕が持てた」と喜ぶ。

 ただ、勤務日が週五日から四日に減る分、給与は五分の四に減少する。人財開発部の落合加奈さん(34)は「一時的に収入が減っても健康や家族との時間を優先させたい人が多かった」と話す。「さまざまなニーズに応えるのが人材確保の点では大事」と強調する。

 日本では一九八〇年代から多くの企業が週休二日制を導入。働き方改革を背景に、ヤフーやみずほフィナンシャルグループなど大手を中心に、選択的週休三日制を取り入れる企業が増えたのは、ここ五年ほどだ。政府が六月、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」に普及を明記して注目を浴びた。副業や大学院での学び直しなどをしやすくする狙いもある。

 選択制でなく、全社的に週休三日とする企業も。オフィス向けの無人コンビニを展開する「600」(東京)は二〇一七年の創業時から、水、土、日曜が休日だ。社長の久保渓さん(36)は「営業日が少ない分、優先順位をつけて仕事をするので生産性が高い」と話す。意思決定者を明確にするなど業務の効率化を図った結果、一日当たりの勤務時間も短く抑え、時間外労働は平均月十時間以下。「労働成果は週休二日と変わらない」と、給与は同業他社と同じ水準を保つ。

 一七年度から夏限定で始めたのは、農業機器製造の「サタケ」(広島県東広島市)。コメの収穫が始まる繁忙期前の六月末~八月上旬は、部署ごとに半数ずつ交代で水曜に休む。休日数が年間百二十八日と導入前とそう変わらなかったため、給与額は維持した。

 社員の中には、副業や資格取得の勉強をする人もいて、人事部長の小林照幸さん(49)は「一人一人が能力を発揮できる環境をつくれている」と胸を張る。通年での実施を目指し、無駄の削減や情報技術のさらなる活用に乗り出している。

 週休三日制について、同志社大政策学部教授の太田肇さん(66)は「働き方の選択肢を増やすという点は賛同できる」と話す。ただ、特にコロナ禍で業績が悪化する企業の中には、人件費削減の目的で導入する例もあると警鐘を鳴らす。

 海外では、オランダやドイツで週休三日を導入する企業が多い。ニュージーランドやスペインの政府も、国全体で導入を検討する方針を示す。ただ、太田さんは「休みを取りづらい日本の企業風土では広まりにくい」という見方だ。

 人材派遣の「スタッフサービス・ホールディングス」(同)が六月、男女千百人に聞くと、七割超が導入に賛成だったが、自分の職場で可能という人は四割に届かなかった。太田さんは「代替社員の確保など、休みやすい工夫ができるかがポイント」と強調する。