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【経済】裁量制 対象拡大へ議論再び 長時間労働

2021/07/27

懸念拭えず 「残業代減らし」 指摘も

 あらかじめ決められた時間を働いたとみなす「裁量労働制」の対象拡大などを議論する有識者検討会(座長=荒木尚志(たかし)東大教授)が二十六日、始まった。対象の拡大は安倍政権下の二〇一八年に、国のずさんな調査が問題となって撤回された経緯がある。政府が撤回後にやり直した実態調査の結果からも、「裁量制が長時間労働を助長しかねない」という懸念はぬぐえていない。(岸本拓也)

 ◇ ◇ ◇

 ■断念
 「マイペースを大事にする労働者には裁量労働は魅力的な制度だと調査は示した」「一割くらいの労働者が本来の裁量制とは違う働きを強いられている」-。

 この日の検討会の議論のたたき台となったのは、厚生労働省が先月公表した裁量制に関する実態調査だ。有識者らは、調査結果を踏まえて裁量制の現状について意見を交わした。

 調査は、裁量制を巡る過去の混乱を契機に行われた。一八年一月、裁量制の適用対象に一部営業職などを加えることを目指す安倍晋三首相(当時)が国会で「一般労働者より(裁量制の人の労働時間が)短いというデータもある」と答弁。しかし、根拠とした厚労省の調査データに次々と不備が発覚し、政府は対象拡大の断念に追い込まれた。

 ■実態
 再調査を迫られた厚労省は同年九月から専門家による検討会で、実態調査のやり方から議論を始めた。三年近くをかけて調査・分析し、今年六月に公表された結果は、安倍氏の答弁とは逆に、裁量制で働く人の方が一日平均で約二十分労働時間が長かった。

 一方で、裁量制で働く人の約八割が「満足」と回答した。自らの裁量で柔軟に働けることに肯定的な意見も多く、経済界はこうした好結果をよりどころに裁量制の拡大を訴える。経団連は昨年十月、政府が一度断念した適用拡大を早期に実現するように要望した。

 厚労省幹部も「過去の経緯を踏まえれば、議論は慎重に進めざるを得ない」としつつも、「対象拡大を含めて検討する」と認める。

 ■上司
 調査結果からは別の問題点も浮かぶ。裁量制では仕事の進め方を自ら差配できる前提だが、調査では、長時間労働と関連の深い「仕事の内容・量」について約三割が「上司が決めている」と回答。裁量制で働く人で深夜労働する人の割合は、一般労働者の倍近くに上ることも示された。

 裁量労働の現場では、賃金面で不利益になりかねない懸念もある。この日の検討会で有識者の一人は「経営側が残業時間に対する支払いを減らしたい時に裁量労働が使われている実態がある」と指摘した。

 検討会は当面、裁量労働制を集中的に議論し、結論を出す時期は示していない。連合の神津里季生(りきお)会長は「裁量労働制で今生じている問題点をどう改善するかの議論抜きに範囲を広げることはあり得ない」と安易な対象拡大をけん制する。

【裁量労働制】
 実際の労働時間に関係なく、あらかじめ労使が決めた時間を働いたとみなして賃金を支払う制度。みなし労働時間が1日8時間を超える分や、休日・深夜に働いた場合を除き、割増賃金は原則支払われない。弁護士やデザイナーといった19業務の「専門業務型」と、経営企画や調査を担う「企画業務型」の2種類がある。