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【医療】知識蓄えて「がん防災」基本的な情報 診断後の治療 仕事との両立

2021/06/22

サバイバー団体が無料冊子

 日本人の二人に一人がかかる「がん」。誰もがなる可能性があることから、突然降り掛かる災害と同じように備えが必要として、がん経験者らでつくる団体が冊子を作って無料で配り始めた。題して「がん防災マニュアル」。「事前に知識を蓄え、がんと診断されてもあわてずに対応してほしい」という願いが込められている。(河野紀子)

 がん防災は、冊子を監修した宮崎善仁会病院(宮崎市)の押川勝太郎医師が提唱する考え方。非常持ち出し袋を用意したり、避難場所を確認したりして備える自然災害のように、がんも告知後に最適な行動が取れるよう、知識を身につけておくことを勧める。

 冊子はA5判でイラストも多用したオールカラー二十八ページ。「普段の備え編」と告知後の「いざという時編」の二部からなる。

 「普段の備え編」は、国などのデータを使い、基本的な知識を提供。早期発見の大切さやがんになる仕組み、がんリスクを下げる生活習慣など体に関わる内容から、治療費と生活費をサポートする公的な制度、民間保険の見直しの必要性に至るまで多岐にわたる。

 「いざという時編」はがんの種類や進行度、本人の状態に合わせて決まる治療法の説明から。医師に任せきりにせず、しっかり理解し自分で選ぶよう促す。

 治療を巡る四つの誤解に関する解説も。その一つ、「保険適用の標準治療=平凡な治療」は間違いと指摘する。膨大な数の臨床試験をくぐり抜け、効果もリスクも確認済みなのが標準治療、つまり最善の治療法として注意を呼び掛ける。

 治療と仕事の両立については、治療前、治療・療養中、復職と三つの時期ごとにやるべきことを明記。治療の見通しを医師に確認したり、勤務先に病状を伝えたりする大切さを説く。

 冊子製作の中心になったのは、一般社団法人「がんと働く応援団」代表理事の吉田ゆりさん(39)=神奈川県厚木市=と、副理事長の野北まどかさん(49)=東京都港区=の二人。二人ともがんサバイバーだ。

 国立がん研究センターによると、日本では年間約百万人ががんを発症。医療技術の進歩で生存率は年々向上し、二〇〇八年にがんと診断された患者の十年後の生存率は59・4%だ。厚生労働省の「がん患者の就労や就労支援に関する現状」によると、働きながら通院する人は約三二・五万人と推計される半面、患者の三割超は診断後に退職、または解雇されている。

 野北さんは四十七歳で乳がんが発覚。乳がんは日本人女性の九人に一人がかかり、しかも四十代後半が発症のピークであることを知ったのは告知後だ。最も進行しているステージ4で右胸を全摘出。抗がん剤と放射線治療は、八カ月に及んだ。勤め先の休職制度、健康保険から支給される傷病手当金については退職後に初めて知った。「前もって分かっていれば、辞めずに済んだかも」と振り返る。

 三十六歳でステージ1の卵巣がんが判明した吉田さんは、卵巣と子宮を摘出。「がんや治療について全く知らず、相談先も分からなかった」。第二子出産を機に、キャリアカウンセラーとして独立したばかりで収入面の不安があった。

 冊子の製作にはクラウドファンディングで集まった六十六万円余をあて、二万二千部を用意。がん検診は受けたか▽会社の就業規則は確認したか-など八項目のチェックリストも掲載=表。二人は「これを見ながら、家族と一緒に備えを確認してほしい」と話す。

 申し込みは団体のホームページ(HP)=「がんと働く応援団」で検索=から。三冊までは無料、それ以上は一冊六十円(送料は着払い)。冊子はなくなり次第終了。