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【社会】70歳就業 企業に温度差 制度導入「経験豊か」意欲にも配慮

2021/05/03

対応未定 コロナ逆風、雇用厳しく
4月から努力義務

 企業に七十歳まで働けるよう努力義務を課す改正高年齢者雇用安定法が今年四月に施行された。内閣府の調査によると、六十五歳を過ぎても「収入を伴う仕事を続けたい」と希望する人は半数を超えるが、新型コロナウイルス禍で雇用情勢が悪化する中、対応を決めかねる企業も少なくない。(竹田弘毅、中山梓)

 ◇ ◇ ◇

 今年四月、同法の改正を受け、百五銀行(津市)は六十五~七十歳を対象にしたパートタイムの雇用制度「アシストスタッフ」を新設した。五月からこの制度を利用し働く第一号となるのは相続センターで働く森井均さん(65)。「経済的に豊かな老後を迎え、規則正しい生活を送り続けるためにも、定年後の職を探さなければと思っていたので、(雇用継続は)渡りに船だった。孫にプレゼントも買いたい」と表情を緩めた。

 雇用区分が変わることで、森井さんは「時給制」となり給料は下がるが、勤務地は変わらない。十年ほど前から携わってきたという相続関係の業務に引き続きあたる。各支店で受け付けた相続申請を一括して処理する業務を請け負うため、専門知識を求められることも多く、後輩行員の指導も重要な役割。森井さんは「知見の全てを伝えていきたい」と意気込む。

 同行によると、七十歳までの雇用制度は東海三県の地方銀行で初めて。既存の六十~六十五歳を再雇用する制度に「再々雇用」の五年間を追加した。同行の担当者は「経験豊かな行員をつなぎ留めることで、未経験者をパートで雇うより人件費は割高になるが、管理業務を任せられるため、若手を営業に回せるなど利点は多い」と話す。

 ◆59%「働きたい」

 森井さんのように働く意欲を持つ高齢者は多い。内閣府が六十歳以上を対象に二〇一九年度に実施した「高齢者の経済生活に関する調査結果」では「何歳まで収入を伴う仕事をしたいか」との問いに対し、「七十歳くらいまで」と「それ以上まで」の合計は59・0%に上った。

 こうした意欲や今回の改正を受け、制度を整える企業は増えている。総合商社の三谷産業(金沢市)も四月に定年退職を事実上廃止。広報担当者は「戦力として後進の指導やノウハウの伝授をしてもらえる。上限を撤回することで、長く働いてもらうというメッセージにしたい」と話す。

 六十歳以上を「マスター正社員」、六十六歳からは「マスター嘱託社員」と位置付け、対象者はグループ全体で約七十人となる。六十五歳までは昇給も設け、成果に見合った賞与も支給する一方、役職者については原則六十歳での「役職定年制度」を導入。定年廃止で現役世代が役職に就く時期がこれまでより遅くなる「弊害」が生じないよう配慮した。

 ほかにも空調機器大手のダイキン工業(大阪市)でも四月から再雇用制度が拡充され、希望すれば七十歳まで働くことができる。YKKグループ(東京)では正社員の定年を廃止した。

 帝国データバンクが二月に実施した「雇用動向に関する企業の意識調査」によると七十歳までの就業機会確保への対応(複数回答)として「七十歳までの継続雇用制度の導入」と回答した企業が25・4%、「もともと七十歳まで働ける制度がある」も16・4%だった。ただ、「(現段階で)対応は考えていない」が32・4%、「分からない」が14・9%と対応を決めかねる企業も目立った。努力義務のため、多くの企業は様子見の状態だ。

 ◆中小は余裕なく

 中長期的には人手不足により、企業の高齢者の継続雇用などの導入が進むとの見方もあるが、現状はコロナ禍が足を引っ張る。東京商工リサーチによると、今年一~三月に早期・希望退職者を募った上場企業は近畿日本ツーリストを傘下に持つKNT-CTホールディングスなど四十一社。募集人数は前年同期の二・一倍の九千五百五人に上るなど、一部企業では現役世代の雇用も守り切れないほど厳しい状況だ。

 中小企業の労務に詳しい北見式賃金研究所の北見昌朗所長は「新型コロナの影響で、(現役世代の)雇用の維持も厳しい企業があるうえ、四月からは中小企業にも同一労働同一賃金が適用されるようになり、六十五歳までの従業員の賃金をどうするかという検討が必要な状況にある」と指摘。「多くの中小企業が七十歳までの雇用について議論できる状況にないだろう」とみている。