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【社会】スーツ離れ コロナで加速

2021/04/01

カジュアル化、テレワーク
クールビズ、団塊世代退職… 市場縮小に影響 

 間もなく、街中で真新しいスーツに身を包んだ新社会人や新入生を目にする時期を迎える。その一方、スーツの販売は低迷。仕事着のカジュアル化などで市場が縮小していたところに、新型コロナウイルス禍で働き方が変わり、スーツ離れが加速した。紳士服・アパレルメーカーは、カジュアル化やテレワークを意識した衣料品を投入し、需要の取り込みを図っている。(鈴木啓太)

 ■春の商戦

 「コロナの拡大後、厳しい状態が続いている」。名鉄百貨店本店の紳士服売り場の担当者は、コロナ禍のスーツ販売の苦境を打ち明ける。本店メンズ館では十四ブランドがスーツを扱う。春は例年、買い替えのほか、入社・入学などを控えた学生らの需要が高まるが、感染が拡大した昨春は時短営業や休業を余儀なくされた。今春の客足は昨年よりは回復しているが、「一昨年までの勢いはない」。

 売り場ではコロナ禍のテレワークで服装のカジュアル化が進んだとし、生地に伸縮性があるなど着心地のいいジャケットやスラックスの取り扱いを強化。「コロナが新しい商品の導入を一気に加速させる分岐点になった」と話す。

 ■業界低迷

 紳士服メーカーも苦戦を強いられる。「洋服の青山」などを展開する青山商事(広島県福山市)、AOKIホールディングス(横浜市)、はるやまホールディングス(岡山市)の各社は二〇二一年三月期連結業績予想を減収減益と見込む。

 青山商事はコロナで業績が悪化したとして、昨年十二~二月に希望退職者を募り、六百人余りが応じた。二一年度までの三年間で不採算店八十五店舗を閉鎖する計画だったが、対象を全店舗の約二割に相当する計約百六十店舗に拡大した。

 広報担当者は「団塊の世代の退職などスーツを着る人口の減少は見据えていたが、コロナでスピードが上がった」と説明。冠婚葬祭や出社、出張の減少で着用頻度が減り「スーツが傷みにくくなり買い替えも減ったのでは」と推測する。

 影響は世界にも広がっている。歴代の米国大統領らがスーツを愛用した米老舗衣料品店ブルックスブラザーズは昨年七月、日本の民事再生法に相当する連邦破産法一一条を裁判所に申請し、経営破綻した。

 ■知恵絞る

 各社はビジネス環境の変化に合わせ、知恵を絞る。テレワークに適した衣料品として、青山商事はカーディガン、AOKIはジャケットなどを展開している。

 婦人服製造卸大手のクロスプラス(名古屋市)は昨年六月、カジュアル化に対応する衣料品として、男性向けビジネス服ブランド「ビズコス」でポロシャツの販売を開始。ニットやTシャツも加わった。

 担当者は「ビジネスでもプライベートでも使えて、ジャケットを羽織ってもいい。快適に仕事できるシーンを想定し、何が必要なのかを考えた」と狙いを話す。ポロシャツやTシャツは裾を出しても清潔感が出るように、各サイズごとに二、三種類の着丈を用意し、しわになりにくいように加工。ニットは毛玉になりにくい糸を使う。

 都市部を中心にテレワークの推進や定着がさらに進むと予想し「仕事をする服装がますます自由になってきている。さまざまなビジネスシーンで、一枚でさまになる商品を提供していきたい」と意気込む。

    ◇

◆クールビズ、団塊世代退職…
◆市場縮小に影響

 スーツ市場は近年、縮小傾向にある。総務省の家計調査によると、男性用スーツ(背広服)の一世帯(二人以上)当たりの年間支出額は一九九一(平成三)年には一万九千四十三円だった。

 二〇〇〇(平成十二)年以降、統計に農林漁家世帯が含まれるようになったため、単純比較はできないが、年間支出額は〇一年に一万円を下回り、〇九~一九年は五千円前後で推移。新型コロナの感染が拡大した二〇年には、二千八百九十三円に落ち込んだ。

 アパレル企業などのコンサルティングを手掛ける小島ファッションマーケティング(東京)の小島健輔代表は「一九九〇年代前半までは社会慣習としても組織の中で、ポジションを表すのに背広が必要だった」と語る。

 スーツ離れの要因については、環境省が二〇〇五年に提唱した夏季の軽装「クールビズ」やスポーツ庁が一八年に奨励したスニーカー通勤による服装のカジュアル化、団塊の世代の退職などを指摘する。加えて、増税や四十歳以上に納付が義務付けられている介護保険料などの負担増で、「勤労者が働くための服装にお金をかけられなくなった」とも分析した。

伸縮性がある素材を使ったスーツ(手前)も並ぶ紳士服売り場=名古屋・名駅の名鉄百貨店本店で
伸縮性がある素材を使ったスーツ(手前)も並ぶ紳士服売り場=名古屋・名駅の名鉄百貨店本店で