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【暮らし】コロナ感染後 「就業制限」解けたのに… 待機命じる会社も 不合理な長さ パワハラの可能性

2021/03/29

 働く人が新型コロナウイルスに感染した場合、関心の一つは、いつ仕事を再開できるかだ。国は入院やホテルなどでの療養期間を終えれば、すぐに復帰していいとするが、「万一のため」などと職場から引き続き自宅待機を求められ、中にはその間、無給という例も。専門家は「納得がいかない場合は労働組合や労働弁護団に相談してほしい」と呼び掛ける。(河郷丈史、佐橋大)

 新型コロナに感染した六十代男性の家族から今月、本紙にこんな相談が寄せられた。

 本人は無症状で、療養期間が終わったら早く職場に復帰したいと考えている。しかし、会社は「もっと休んでほしい」という反応。「本人は落ち込んでしまった」という内容だった。

 新型コロナは現在、感染症法上の「新型インフルエンザ等感染症」に分類され、感染者には都道府県知事によって就業制限が課される。厚生労働省は、他人にうつす感染力は発症後七~十日ほどで極めて弱くなるとして、制限解除の基準を設定。重症化し人工呼吸器を付けた人などを除き、症状がある場合は基本的に発症から十日かつ症状が軽快してから七十二時間の療養が必要とする=表。一方で、無症状の場合は検査をした日から原則十日間、自宅やホテルなどでの療養を求めている。

 療養期間が終われば、就業制限は終わる。県などから解除通知を受け取り、仕事を再開する流れだ。「陰性証明」なども不要。ただ、復帰の時期は企業の判断に委ねられているのが現状だ。就業制限を課す立場にある愛知県も「解除後に、従業員を就業させるよう会社側に促す権限は都道府県にはない」とする。

 復帰の遅れに加え、愛知県労働組合総連合(愛労連)などが自宅待機で問題視するのは、賃金が支払われないケースだ。一月に感染した中部地方の四十代男性は、療養期間を終えた後、二週間の自宅待機を命じられた。待機中は「休業」扱いで無給。「従わざるを得なかった」と悔しがる。

 厚労省によると、就業制限期間中は、健康保険組合から傷病手当金は支給されるが、会社が賃金や休業手当を支払う必要は原則としてない。会社の都合による休みではないからだ。一方、労働基準法二六条は、会社の責任で労働者を休ませる場合は、平均賃金の六割以上を休業手当として支払うよう義務付けている。

 制限解除後、企業がそれぞれの判断で命じる自宅待機中は、休業手当が支払われるべきだと訴える労働組合関係者は多い。さらに踏み込み、東海労働弁護団(名古屋市)幹事長の樽井直樹弁護士は「企業には賃金全額を支払う義務がある」と主張する。根拠は、正式な手続きを踏まない解雇など会社側の責任で働くことができなくなった場合に、賃金全額を請求できるとする民法五三六条第二項だ。「企業の故意、過失による自宅待機は、不当解雇と同じ状態」と力を込める。

 場合によっては「会社側に慰謝料を請求できる可能性もある」と樽井さんは言う。期間が不合理に長い▽合理性がない▽特定の人だけが長いなど平等性に欠ける-といった例は、差別的な取り扱いやパワハラを受けたとみることができるというのが理由だ。

 納得がいかない場合の相談先には、労働組合や各地の労働弁護団などがある。日本労働弁護団(東京)のホームページでは、各地の労働弁護団の一覧が掲載されている。