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【経済】雇用シェア 条件はフェア? 他業種経験 スキル向上に

2021/03/22

労働規約整え 不安解消を

 新型コロナウイルス感染症が経済に影響を与える中で迎えた今年の春闘では、「雇用維持」も大きなテーマとなった。解決の手法として注目を集めるのが、一時的に雇用過剰となった従業員を人手不足の企業に出向させる「雇用シェア」(在籍型出向)だ。需要が急減した観光や航空関連などで実施例が相次いでいるが、雇用の不安定化や従業員の負担につながるなどの課題も指摘されている。(中山梓)

 ◇ ◇ ◇

◆空港勤務から事務員へ

 「昨年は新型コロナの影響でほとんど働くことができず、転職も考えるくらいだった。今は仕事ができてすごくほっとしている」。中部国際空港(愛知県常滑市)の免税店で販売員として働いていた女性は現在、元の会社に在籍したまま、名古屋市内で事務員として勤務する。

 憧れて選んだ空港勤務の仕事だったが、新型コロナで国内外の顧客数は激減し航空便も減便や運休に。出勤人数は減り、自宅で過ごす日々の中で働けないことへのストレスが募っていった。出向期間は約一年。出向先での仕事については「今までと違う環境なので勉強になる」と前向きに捉えるが、「出向の延長や、以前と同じ条件で元の職場に戻れるのかなと考えることはある」と不安を語る。

 日本航空グループは一日最大千人をホテルやコールセンターなどに出向させており、ANAグループは四月時点で四百人以上の従業員を家電量販大手や自治体などに出向させる予定。期間は数カ月や一年などと出向先によってそれぞれ異なる。

 中部地方でも、三重県が四月一日から一年間、ANAグループの客室乗務員ら三人を職員として受け入れると発表した。愛知県も中部国際空港旅客サービスから十五人を受け入れている。中部経済産業局が実施する人材マッチング事業では、需要が落ち込んだ航空機関連から自動車関連への出向を中心に、二月末までに二百九十七人が他社での仕事に取り組んでいる。

◆中小企業も活用の動き

 大手だけでなく、中小企業でも活用する動きがある。福井県南越前町のゴルフ用品製造「ノースランド」は昨年十一月から十二月にかけて従業員十人が県内のそば製造販売会社に出向した。新型コロナの影響で原材料の入荷のめどが立たず、生産が見通せなかったため、その間の雇用維持策として浮上した。

 福井県や労働局などのサポートを受けながら、社員に理解してもらえるように全体集会を開催。不安や負担を軽減するために業務の引き継ぎなどの支援態勢を整えた。担当者は「最初は仕事内容や働き方の違いから戸惑いもあったようだが、他社の取り組み方が学べ、行って良かったとの声がある」と振り返る。

 こうした動きを推進しようと国も支援に乗り出した。厚生労働省は二月、出向元と出向先の双方の事業主に対して助成金を支給する制度を創設した。愛知県と愛知労働局は情報やノウハウの共有、受け入れ企業の開拓を推進する会議を設置し、十九日に初会合を開催。愛知県からは今年二月に県内二万社を対象にアンケートをした結果、回答した千三百八社のうち二百四十一社が受け入れを検討していることなどが報告された。

◆働く人の負担増が課題

 雇用を守るだけではなく、他社を経験することによる能力向上、従業員の生活不安を解消する点で労使双方に利点があるが、課題もある。労働問題に取り組むNPO法人POSSE(ポッセ、東京)には「雇用シェアへの協力を求められたが、月給が時給に変わっていることが不安」「短期派遣で別会社で働くように言われたが、条件は『派遣先の都合に合わせる』と言われた」などの相談が寄せられている。

 今野晴貴代表は「雇用シェアによって雇用関係が曖昧になり、転籍などにつながる可能性があり、不慣れな仕事に就くことで労働者の負担が増加する」と課題を指摘する。その上で「本人にしっかりと同意を得た上で実施する仕組みを整え、いつまでどんな規約で契約するかなど同意の中身を明確にすることが必要だ」と述べている。

コールセンターで業務に当たる日本航空の客室乗務員=昨年12月18日、東京都豊島区で(一部画像処理)
コールセンターで業務に当たる日本航空の客室乗務員=昨年12月18日、東京都豊島区で(一部画像処理)