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【愛知】豊明の相談窓口「はばたき」ひきこもりへの理解を

2021/02/07

外出、就労支援 年々増加

 豊明市社会福祉協議会が運営するひきこもり相談窓口「はばたき」は今年、開設3年目を迎える。相談でつながった当事者に外出や就労などを支援した件数は、年々増加している。(平木友見子)

 厚生労働省の定義では、ひきこもりとは、さまざまな理由で就労や就学など自宅以外での生活の場が半年以上失われた状態。内閣府の調査によると、人口に占める割合は推計1・5%ほど。

 市は2018年4月、相談支援事業を開始。市社協が運営に手を挙げ、市や保健所、民生委員など関係機関で連携し合う基盤をつくった。

 市役所社会福祉課内にある窓口で相談を受けた実人数は昨年末現在、計百三人。うち十、二十代が全体の約半数を占める。ひきこもり歴は「一年以下」が三十七人と最も多く、次に「五~十年」の十九人。長期となる「十五~二十年」は四人、「二十~二十五年」は五人、「二十五年以上」も一人いる。

 その後の支援は散歩や買い物の同行や居場所提供、学習・就労支援などで、のべ件数は初年度の五百三十六件から倍増し、二〇年度はすでに昨年十二月で九百五十五件となっている。

 また、はばたきが同時に力を入れているのが、啓発活動だ。ひきこもりを正しく理解することで、社会全体で当事者を長い目で見守れるようになることを願い、市民らを対象とした勉強会「スタンドバイ活動」や講座、サポーター講習会などを開催している。

 目指すのは、当事者を無理やり家から出すことではなく、その人のペースでその人なりの幸せが持てるようになることと、それを支える温かい理解の輪が広がること。相談員の岩井千晶さん(41)は「生き方は人それぞれ。その人に合わせて寄り添える伴走者になりたい」と話していた。(問)はばたき(平日午前八時半~午後五時十五分)=0562(85)3951

    ◇

◆39歳男性 対話重ね福祉施設に就職

 豊明市内で約2年間、ひきこもり状態だった男性(39)は「はばたき」で就労支援などを受け、現在は福祉施設のパート職員として働く。「生きるエネルギーのメーターがゼロに近かったが、希望を与えてもらい再出発できた」と話す。

 男性は大学2年のとき、学業や部活に真剣に向き合いすぎて燃え尽き、双極性障害(そううつ病)を発症。就職したが会社でトラブルを起こして2017年8月に退職した。実家に戻った後は、布団から出ず、ひたすらスマートフォンで「ひきこもり」「社会復帰」を検索する生活。だが「ネットの中に答えは見つからなかった」と振り返る。

 「誰か分かってくれる人がいるはず。誰か助けて」。男性は、保健所や民間が行う電話やメール相談にも連絡したが、思いは受け止めてくれるものの今後どうしたらいいかまでは助言してくれない。そんなとき、はばたきの存在を知り、19年9月、わらをもつかむ思いで電話をかけた。

 緊張して前日一睡もできなかった男性の話を、相談員は否定せずじっくりと聞いてくれた。「人と関わる仕事に就きたい」と話すと「その可能性は十分だと思いますよ」と言ってくれた。その言葉が男性にとっては希望だったという。「人と関わらない仕事をと言う方が現実的かもしれないけど、それでは希望にはならなかった」と男性は話す。

 その後、相談を重ね、居場所活動への参加や就労支援を受け、昨年11月に勤務先が決まった。今は少しずつ勤務日を増やしながら働いているといい、「できることが増えると自信が増える。息をして心臓を動かしているだけの1日が苦しかったが前向きになれた」と毎日に手応えを感じている。

「今のままでいいと認めることが外に一歩出るきっかけになる」と話す相談員の岩井さん=豊明市新田町の市総合福祉会館で
「今のままでいいと認めることが外に一歩出るきっかけになる」と話す相談員の岩井さん=豊明市新田町の市総合福祉会館で