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【暮らし】「同一労働」訴え棄却 定年後雇用、年収減に泣く

2021/01/25

 定年後に再雇用された場合、仕事は同じでも給料は下がるのが一般的だ。希望者を六十五歳まで雇い続ける義務がある中、人件費は抑えたいという企業側の思惑が、背景にはある。四月に施行される改正高年齢者雇用安定法では、さらに七十歳までの就業機会確保を企業の努力義務とする。再雇用後の待遇に、これまで以上に注目が集まりそうだ。 (佐橋大)

 ◇ ◇ ◇

 「システムエンジニアとしての仕事は同じなのに、定年後は年収が二割以上も減った」。愛知県在住の男性(62)は二〇一九年十月、定年前との賃金の差額などを求め、正社員として働いていた派遣会社を訴えた。再雇用後は、正社員から「限定社員」の身分に。月給制から時給制に変わり、賞与もなくなった。

 十三日に名古屋地裁が出した判決は、訴えを全面的に退けた。焦点になったのは、正社員と、非正規社員との不合理な待遇格差を禁じる労働契約法旧二〇条(現パートタイム・有期雇用労働法八条)だ。判決では、再雇用後の「限定社員」は雇用期間の定めがなく、有期雇用の非正規には当たらないと判断。二〇条に違反しないと位置づけた。さらに、退職金を受け取っていることなどを理由に、住宅手当といった各種手当の不支給も「不当ではない」とした。

 日本労働弁護団常任幹事の谷真介弁護士(大阪弁護士会)によると、近年は六十〜六十四歳の男性の八割近く、女性の五割が雇用されていることを受け、定年前後の格差に関する相談が目立つ。訴訟になる例も少なくないという。

 独立行政法人労働政策研究・研修機構が一九年、従業員五十人以上の二万社を対象に実施した調査では、定年後の仕事の内容について、44%の企業が「定年前と全く同じ仕事」と回答。38%は「定年前と同じだが、責任が軽い」とした。つまり八割超が定年前と同じ仕事をさせていた。

 最も多い六十歳定年制を採る企業を見た場合、定年直前の賃金を100とすると、定年後もフルタイムで働く六十一歳の賃金は平均値で75・2。年功序列型の賃金体系を採る企業が多数を占める日本では、定年前と同水準の賃金を保つのは難しいことを裏付けた。

 とはいえ、どこまで下げると違法なのか。名古屋地裁は昨年十月、定年前との差額などを求めた男性二人に対し、「基本給が定年前の六割を下回るのは不合理」と認め、勤め先に支払いを命じた。二人の基本給は退職前の半額以下だった。谷弁護士によると、この判決が一定の基準と認識される可能性はある。

 日本では一三年施行の改正高年齢者雇用安定法で、六十五歳までの雇用が企業に義務付けられた。さらに今年四月からは、再び改正された同法によって、働き続けたい人には七十歳まで働く機会を確保することが努力義務に。将来は完全義務化される可能性もある。

 六十歳以上の雇用は、会社側が、定年廃止、定年延長、再雇用−の三つからどれかを選ぶ仕組みだが、一年ごとに再雇用の契約を結ぶ企業が多い。そのため、谷弁護士によると、待遇の格差は労働契約法旧二〇条に違反するかどうかを巡って争われてきた。ただ、まとまった退職金が支給されていることなどから、賃金の引き下げについては企業の裁量を認める判決が続く。男性のように、雇用期間に定めがない場合は、争うこともままならない。

 谷弁護士は「高齢者の雇用を義務付けるからには、国は少なくとも賃金水準の手引などを作るべきだ」と指摘。「納得できる賃金体系を示せるよう、企業も再雇用者と十分協議することが必要」と強調する。