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【三重】みえに生きる 真逆の現場から 融合

2021/01/09

仕事と休暇 ワーケーション 
「仕事はかどり 新しい考え生まれそう」 新たな誘客 業界熱視線

 重なり合う枝から、淡い光がこぼれる。津市美杉町の山林。昨年十二月中旬の平日、市中心部にあるNTT西日本三重支店の社員が落ち葉を踏み締め、ヒノキの木立を分け入っていく。

 近くのホテル「美杉リゾート」主催のワーケーションのモニターツアーで、仕事の合間に林業を体験した。

 伐採の準備で木にロープをかける作業は「自分の仕事の百倍難しい」。六メートルの高さまで木を登り、伐採の様子を間近で見学もした。

 一時間ほどで、一行はホテルへ。和やかな雰囲気が一変し、ラウンジでそれぞれパソコンに向かった。今からは仕事の時間。テレビ会議に出るため別室に移動する人もいた。

 支店では新型コロナウイルスの感染拡大を受け、社員の三~七割が在宅勤務をしていた。その延長でワーケーションを導入できないか。下庄隆文ビジネス営業部長は「メリットやデメリットを見極めたい」と話す。インターネット回線も手掛ける会社だけに、ツアー参加はビジネスとしての可能性を探る目的もあった。

 金曜から月曜まで三泊四日のツアーに、社員八人と二家族の計十四人が参加した。仕事をして、週末は家族との時間を楽しむ。仕事と休暇の両立を試した。

 仕事中、パソコンから顔を上げれば、目の前に木々の緑が広がる。電話のシステム構築などを担うSE担当課長の吉岡宏高さん(43)は「仕事もはかどるし、新しい考えが生まれそう」と感じた。

 電話の声が漏れたり、パソコン画面が見えてしまったりと、セキュリティーは気になるところ。勤怠の管理や就業規則の変更なども課題だが、「新しい働き方を見つけないといけない時代になっている」と下庄部長は強調する。

 コロナ禍に振り回される観光業界は、新たな誘客の手段に熱い視線を送る。美杉リゾートの中川雄貴社長(37)は「効率や創造性が高まったり、滞在中の体験が仕事につながったり。付加価値を提供できるかが重要になってくる」と語る。

 豊かな自然や地域の特色を生かせれば。アウトドア人気の高まりで昨夏にぎわった大台町では、宿泊施設「奥伊勢フォレストピア」が、地元旅行会社「ベルデ大台ツーリズム」と「キャンプワーケーション」を企画した。

 施設隣のキャンプ場を提供するほか、ラウンジにWi-Fi環境やプリンターをそろえた。サップやカヌー、登山、釣りなど、周辺で楽しめることは多い。施設はモニター客の意見も参考に環境整備を進める。

 リアルとネットを融合するワーケーションは、まだ導入が一部のITやベンチャー企業にとどまる。「少ないパイを分け合っている状態」。ベルデ社の野田綾子代表はこう評しつつ、今後の広がりに期待を寄せる。(斉藤和音)

(メモ)

【ワーケーション】 ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を合わせた造語。観光地などに滞在しながら、パソコンやタブレット端末、テレビ会議システムなどを使って仕事をする。新型コロナウイルスの感染拡大で知られるようになり、国も新しい働き方として普及を掲げる。県は2020年度、モデル事業を5団体に委託し、それぞれ100万円を補助した。

ホテルのラウンジに設けられたスペースで仕事に励む参加者=津市美杉町八知の美杉リゾートで
ホテルのラウンジに設けられたスペースで仕事に励む参加者=津市美杉町八知の美杉リゾートで
仕事の合間の林業体験で、木を登る参加者=津市美杉町で
仕事の合間の林業体験で、木を登る参加者=津市美杉町で