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【暮らし】不妊治療 社内支援 制度の拡充 広がる試み

2020/11/02

休暇名を工夫 幹部に講習

 不妊治療をする従業員への企業支援を巡り、休暇や費用助成などの社内制度を利用しやすくする試みが広がっている。相談できずに利用を諦めてしまうことが少なくなく、管理職向けの講習会を開いたり休暇の申請方法を工夫したりする。政府は治療費の助成拡充を目指すが、治療と仕事の両立には職場の理解や環境づくりが欠かせない。

 小田急電鉄(東京)は昨年秋に初めて不妊治療の講習会を開いた。勤務シフトを管理する副駅長らが対象で大半が四十~五十代の男性。看護師が治療の種類やスケジュールを説明すると「女性の負担がこんなに大きいとは」「通院日が直前に決まるなんて知らなかった」と驚きの声が上がった。

 同社は治療費の一部を助成。利用は年間数十件で全員が申請しているわけではないという。相馬慈人事部課長は「デリケートな問題なので会社に知られたくないのでは」とみている。社員の九割を男性が占め、「不妊治療に関係ないから男性に相談しても理解されないといった誤った認識が利用の妨げになっている」と分析する。「男女問わず互いにサポートできる環境をつくりたい」

 二〇一八年から同社と連携し、妊活支援サービスを提供するファミワンの石川勇介代表取締役によると、新卒や幹部にセミナーを開く企業は増加傾向で契約数は約三十社に上る。多くがすでに制度を整えていたり導入を検討していたりする企業だ。

 石川氏は「職場の理解が深まらないと利用が進まない」と指摘。政府が掲げる助成の拡充を踏まえ「併せて企業側には治療を相談できるオープンな風土づくりが求められる」と訴える。

 厚生労働省が一七年に行った全国調査によると、支援制度がある企業は9%。一方、NPO法人Fineが同年実施した調査では、制度を「使わなかった(使おうと思わない)」とした人が四割に。また、制度の有無にかかわらず全体の八割以上が「職場で治療していることを話しづらい」と答えた。

 治療経験のある埼玉県の女性会社員(34)は「男性上司が悩みを理解してくれるのか、相談することが最初の壁だった」と振り返る。理解ある上司だったため休暇を取得し治療に専念できたといい「制度づくりとセットで社会全体の理解を得ることも大切だ」と話す。

 サイバーエージェントが導入する独自の人事制度「macalon」には月一回の妊活休暇が含まれ、通院などでこの休暇を取る場合は「エフ休」という言葉を使用して申請する。「エフ休」は年次有給休暇や生理休暇にも使われ、同じ名称を用いることで周囲に知られずに休める。

 制度を利用する三十代の女性社員は「こうした制度があるだけで会社が妊活と仕事の両立を認めてくれていると思えて安心できる」。人事担当の田村有樹子さんは「社員の心理的負担を配慮しながら、より活躍できる環境を整えたい」と話した。

小田急電鉄で副駅長らを対象に開かれた不妊治療の講習会=2019年10月、相模原市で(ファミワン提供)
小田急電鉄で副駅長らを対象に開かれた不妊治療の講習会=2019年10月、相模原市で(ファミワン提供)