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【社会】外国人にも、ユウキュウを フィリピン人女性 愛知に労組

2020/11/01

 新型コロナウイルスの感染拡大で雇用環境が悪化する中、外国人労働者が個人加盟できる労働組合が愛知県内で誕生した。労働者のための法律や制度を知らず、不利益を被っている現状を変えようと、自身も雇い止めに遭ったフィリピン人女性が立ち上げた。外国人同士で相談しやすくなるメリットがあり、異国で互いに助け合いながら、雇用の維持や労働環境の改善を進めていく。(梶山佑)

 「ユウキュウは知っていたけど、派遣会社は『ないない』って。指摘するとすぐ怒られた」。三カ月前に雇い止めに遭ったフィリピン人男性(44)はタガログ語で、スマートフォンの画面越しに労組に訴えた。大学への留学で来日したが、卒業しても希望する技術職には就けず、県内の工場で働いていた男性。雇用契約書や離職票をもらえず、失業給付を申請できないため、困り果てていた。

 相談に応じたのは、六月に労組「アイチ・マイグランツ・ワーカーズ(AMW)」を立ち上げた名古屋市港区のアリアさん(56)=通称。自身も尾張地方の自動車部品工場で派遣社員として働いていたが、三月末に雇い止めに遭った。コロナで中国からの部品供給が止まって仕事が激減。「突然呼び出され、『あなたには何もできない』と言われた」と振り返る。

 クラブの歌手として来日し、シングルマザーとして日本人との間の子どもを育て、二十年前に定住者となった。現在もハローワークに通うが、最近紹介されたのは深夜の皿洗いだけ。「外国人はきつい仕事しかない」と漏らす。

 アリアさんは同様に仕事を辞めさせられた同胞の境遇を知り、団結を呼び掛けた。二年前に知人が勤め先とトラブルとなった際に助けてもらった個人加盟型の労組「ユニオン愛知」(名古屋市南区)に頼み、同労組の支部としてAMW設立にこぎつけた。執行委員や監査などの役員すべてをフィリピン人で担い、規約も作成。団体交渉やストライキができる正式な労働組合となった。

 当初の組合員は十五人だったが、四カ月で二十五人近くに。企業やハローワークとの交渉にユニオン愛知幹部やアリアさんが付き添い、有給休暇を取らせていなかった会社に休暇日数分五万円の支払いに応じさせたり、十万円減額されそうになっていた失業給付を規定通りにもらったりと、成果を上げている。

 活動の中心は勉強会。ユニオン愛知幹部を招いて月一回ほど集まり、取得できる有給休暇の日数や、残業時間の計算方法などを学ぶ。

 アリアさんは「法律や制度を勉強して、会社にだまされないようにしたい。みんな仕事がないけど、助け合いたい」と話す。

    ◇

◆派遣多く 弱い立場

 厚生労働省によると、新型コロナウイルスの感染拡大に関連する解雇や雇い止めは、二十三日時点で見込みを含めて六万八千百四十人。都道府県別では愛知は全国で三番目に多い三千七百四人、岐阜では千五百十三人、三重は六百六十五人、長野は千三百九十九人、福井は五百九十九人、滋賀は四百五十人に上る。国籍別の統計はないが、ユニオン愛知の森博和書記長(69)は「中部地方は派遣社員として働く外国人が多く、切られやすい弱い立場にある」と分析する。

 個人加盟の労組には外国人労働者や失業者からの相談が相次ぐ。「名古屋ふれあいユニオン」(名古屋市中村区)には三月以降、毎月三十件以上寄せられ、「当日に雇い止めを告げられた」「『自己都合という形にしてほしい』と言われた」といった声が届く。

 「ユニオンみえ」(津市)にも例年の三倍以上の相談が続いているという。

 外国人労組は中部地方では、ユニオンみえや岐阜一般労働組合(岐阜市)の支部組織のほか、名古屋市内の領事館職員による組織などがあるが、少ない。

ユニオン愛知の森博和書記長(左)と労働契約などについて話すアリアさん=名古屋市中村区で
ユニオン愛知の森博和書記長(左)と労働契約などについて話すアリアさん=名古屋市中村区で