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【社会】実習生 見えぬ来日増 介護、製造業 人手不足なのに

2020/10/21

便数に限り 外注で仕事しのぐ

 新型コロナウイルスによる入国制限が今月から全世界を対象に緩和され、技能実習生の来日も再開した。菅義偉首相は十八日から就任後初の外遊で実習生の最も多いベトナムを訪れ、同国首脳と往来の活発化で合意。慢性的な人手不足の中、コロナ禍でも外国人材を求める声は根強く、関係者は技能実習生の来日に期待するが、入国者の数はまだ少なく、先行きは見通せない。(中崎裕、梶山佑)

 「日本に来られず不安だった。介護の仕事を勉強したい」。今月五日、愛知県刈谷市で一カ月間の研修を終えたベトナム人技能実習生のファム・ティ・アイさん(27)が笑顔を見せた。四月中旬に来日予定だったが、三月下旬の往来禁止で延期に。ベトナムは各国に先駆け、二国間協議で七月末に制限が緩和され、九月二日に五カ月近く遅れて入国が実現した。

 受け入れを担った監理団体のGTS協同組合(同県知立市)にとって、アイさんら七人は制限緩和後の入国第一号。同組合の専務理事で研修などを手掛ける知立市の会社「ARMS」の浜島正好会長(55)は「入国できる空港が東京や大阪に限られ、迎えに行くコストが高いが、人手不足が続く介護や製造業には余分に費用がかかっても早く来てもらいたいという会社はある」と話す。

 ただ、同組合を通じて四~九月に入国予定だった実習生四百四十八人のうち、入国できたのは十七人にとどまる。現地の日本大使館のビザ発給は順次進んでいるが、航空便数も限られ、十一月以降も入国者が大幅に増えるかは未定だ。人手不足から新たに実習生の雇用を決めていた名古屋市中村区の板金会社では、二年がかりで手続きを済ませて四月に入国予定だったフィリピン人実習生の来日が、まだ見通せない。人員増を前提に受注した仕事は、費用がかさむ同業者への外注でしのいだという。

 ベトナムとインドネシアからの実習生を受け入れる岐阜市の監理団体「エコ・プロジェクト協同組合」では、春に予定していた実習生が今月八日にようやく来日。菅首相はベトナム国家主席との会談で「停滞していた人的往来を活発化させたい」と表明しており、組合の担当者は「まずは国の関係が良くなることが大切」といち早い往来の正常化を期待する。

 政府はベトナムなど各国との間で短期出張者の隔離免除を進めているが、実習生らは入国後二週間の隔離が必要という課題も残る。ある監理団体の担当者は「入国が増えたら寮だけでは足りず、隔離のためのホテルなどを借りないと。部屋の確保と負担増という問題が全国で起こるのでは」と懸念。さらに「冬になって新型コロナの感染がどうなるか」と不安は尽きない。

    ◇

◆昨年入国 19万人
◆8月221人、9月1854人止まり

 外国人技能実習生は年々増えており、日本の経済活動に欠かせない存在となっている。昨年末時点で国内で働く実習生は四十一万人。ここ五年で倍増した。ベトナムがうち半数ほどを占め、都道府県別では愛知県が四万二千四百四人で最も多い。

 法務省によると、二〇一九年は一年間に十九万人近くが技能実習で新たに来日した。今年は四月までに四万三千人ほどが入国したが、新型コロナで往来がストップ。七月末に一部の国で入国制限が緩和されて以降、八月に来日した実習生は全国で二百二十一人、九月は千八百五十四人で、十月も十一日までで九百人弱にとどまっている。

 実習生は、途上国に日本で習得した技能を伝える目的ながら、安価な労働力として劣悪な労働環境で使われたり、来日のため高額な借金を背負ったりする実態が問題化。監理団体を許可制とした技能実習適正化法が一七年十一月に施行され、国は是正に乗り出した。

 菅義偉首相は今回のベトナム訪問で、フック首相と悪質なブローカーや過度な費用負担の排除で協力することで合意した。多くの実習生を支援してきた愛知県労働組合総連合の榑松佐一顧問は「雇用の調整弁のような扱いはされなくなってきたが、不当な負担を強いられている実態もある」と指摘する。