2020/10/14
格差訴訟で逆転判決
非正規労働者にボーナス(賞与)や退職金を支払わないことが、「不合理な格差」に当たるか否かが争われた2件の訴訟の上告審判決が13日、最高裁第三小法廷であった。契約社員に退職金を支払わなかったケースとアルバイト秘書へのボーナス不支給をいずれも「不合理とまでは言えない」と判断し、一部の支払いを命じた二審判決を見直し、ボーナスと退職金に相当する部分の請求を棄却した。
不合理な待遇格差を禁じる「同一労働同一賃金」が今年四月に始まって以降、初の最高裁判決。働く人の4割近くに当たる2000万人超が、立場の弱い非正規となっているのが現状で、判決は多くの企業や労働者に影響を与えそうだ。
旧労働契約法二〇条は、非正規労働者と正社員の職務内容や企業ごとの事情を考慮したとき、「不合理」と認められる格差を禁じている。最高裁は2018年六月の同種訴訟の判決で、「賃金総額だけを比べるのではなく、手当など賃金項目ごとに考慮すべきだ」との枠組みを示していた。
大阪医科薬科大(大阪府高槻市)でアルバイトの秘書として働いていた女性が起こした訴訟は、ボーナス支給の妥当性が争われた。
宮崎裕子裁判長は判決で、正社員は女性が携わっていなかった試薬管理などを担っており、職務内容に「一定の相違があった」と指摘し、同大が正社員の業務をアルバイトに置き換えていた事情も考慮すると不合理な格差とは言えないと判断。「正社員の6割を下回る支給は不合理」とした二審・大阪高裁判決を見直した。裁判官5人一致の意見。
東京メトロの子会社メトロコマース(東京都台東区)の契約社員として売店で約10年働いていた女性2人の訴訟は、退職金支給の是非が争点だった。
判決は2人と正社員の職務の内容は「おおむね共通する」としつつ、同社が正社員への登用制度を設けていた事情も考慮し、格差が「不合理とまで評価できない」と判断。「少なくとも正社員の4分の1の退職金を支払わないのは違法」とした二審・東京高裁判決を取り消した。林景一裁判長ら4人の多数意見。行政法学者出身の宇賀克也裁判官は「二審判決をあえて破棄するには及ばない」と反対意見を述べた。
判決を受け、大阪医科薬科大は「人事制度を適正に評価してもらった」とコメントし、メトロコマースは「判決内容を確認し、適切に対応したい」とした。
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◆「同一労働同一賃金」に逆行
【解説】
非正規労働者にボーナスや退職金を支払わなかった企業などの判断を「不合理ではない」とした最高裁第三小法廷判決は、不合理な待遇格差を禁じる「同一労働同一賃金」の流れに逆行するものだ。
ボーナスと退職金は、非正規労働者と正社員の収入格差の根幹。契約社員として駅売店で働いていた原告の女性は「なぜ正社員とほぼ同じ仕事をしているのに退職金がもらえないのか」と疑問を抱いていた。
この日の判決は職務内容は正社員と「おおむね共通する」と認めながら、正社員は売店以外の業務をすることもあったことなどを理由に「一定の相違があった」と判断。訴えを退けた。
だが、「一定の相違」もない職務内容などあり得るのか。宇賀克也裁判官が反対意見で言及したように、「大きな相違がないのなら、不合理と評価できる」と考えるのが常識的だろう。
最高裁は「ボーナスや退職金の格差が不合理と認められる場合はあり得る」とも判示し、あいまいな表現で非正規労働者に望みを持たせたが、司法の最高機関として明確に格差是正の道筋を示すべきだった。(東京社会部・池田悌一)
【非正規労働者の待遇格差】 派遣やパートなどの非正規労働者は、バブル崩壊後の1990年代以降、企業の人件費抑制などを理由に増加傾向が続いてきた。総務省の労働力調査によると、今年8月時点で雇用労働者の4割弱、2070万人に上る。昨年8月に比べ120万人減少したが、新型コロナウイルス感染拡大による経済悪化を受けて雇い止めや解雇が相次いだためで、「雇用の調整弁」となっている実態が浮き彫りになった。また正社員に比べ賃金が低く、厚生労働省の調査によると昨年6月時点で、残業代などを除く平均月収で10万円以上の開きがあった。
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