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【社会】会社の信頼に仕事で恩返し 元受刑者就労支援 「コレワーク中部」始動

2020/09/30

昨年出所 愛知の男性 「過去知り雇用、安心感」

 窃盗などの罪で服役し、昨年七月に名古屋刑務所を出所した愛知県の四十代の男性は今、人材派遣会社で働く。この一年数カ月を振り返り「よくやってるな、俺」と思う。自分を信じてくれる雇用主の期待に応えるため、今は仕事に向き合いたいという。再び罪を犯さないためにも。(塚田真裕)

 男性は同県小牧市の人材派遣会社「ティースライブ」の正社員として派遣先で電機設備の組み立てをしている。経験はなかったが、作業を次々に覚え、今では手掛けた製品が納品先からほめられるようになった。「だんだんできることが増え、今は仕事が楽しい」と充実した表情を見せる。

 男性は住居侵入と窃盗の罪で二年半ほど服役した。累犯だった。犯行時、仕事はしていたがそれ以前に犯した罪を隠しての就職で「いつばれるか常に不安だった」と振り返る。過去を明かせない付き合いでは信頼できる人はできず、犯行の歯止めにはならなかった。

 男性がティースライブに出合ったのは刑務所内での就職説明会。出所の三週間前だった。建築業が多い中「さまざまな職種がある」と同社に面接を申し込み、出所前に就職が決まった。

 同社が元受刑者の雇用を始めたのは三年前。営業マネジャー井戸謙佑さん(25)が提案した。「かつて道を外しかけた自分を雇ってくれた社長が『後ろばかり見ていても変わらんぞ』と育ててくれた。初めて大人を信用でき、変わることができた」との思いからだ。

 これまでに内定を出した元受刑者は十七人。現在、四十人の従業員のうち元受刑者四人が働く。井戸さんらが週一回は時間を設けて相談に乗っている。

 男性は「過去を知った上で雇ってもらっているので安心感がある」と話す。井戸さんや社長が会うたびに声を掛けてくれるのがうれしいと言う。一方で「前は職に就いていても罪を犯してしまった。だから楽観はできない」と自分を信じ切れずにもいる。「そんな自分を雇ってくれた会社の力になりたい」。その思いが毎日の原動力だ。

    ◇

再犯防止へ 面接や相談

 法務省は就労支援が再犯の防止につながるとして、刑務所や少年院を出る前に就労先を確保する活動に力を入れている。七月には、これまで東京と大阪のみだった矯正就労支援情報センター「コレワーク」を全国に拡大。「コレワーク中部」(名古屋市東区)も本格始動した。

 二〇一九年の矯正統計年報によると、再犯時に無職だったのは70・8%。同省は出所してすぐに就労できる環境を整えることを重点課題としている。一六年十一月に発足した東京、大阪のコレワークは今年三月までに六百五十三人の内定に関わった。

 コレワークでは、全国の受刑者の資格や職歴、住む予定の場所などの情報二千人分を保有。事業主に要望に合う受刑者がいる刑務所や少年院を紹介し、施設内での面接をセッティングしている。他に雇用に関する疑問や不安に、雇用経験が豊富な事業主が応える個別相談会を開催したり、職員による説明会を開いたりもしている。

 元受刑者を雇う事業主は年々増えて一八年には全国で二万社を超えた。建設業が半数を占めるのが現状で、コレワークでは幅広い職種の雇用主を募っている。

 問い合わせは、コレワーク=フリーダイヤル(0120)295089(平日午前十時~午後五時)=へ。

元受刑者の男性(左)と談笑する井戸謙佑さん=愛知県小牧市のティースライブで
元受刑者の男性(左)と談笑する井戸謙佑さん=愛知県小牧市のティースライブで