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【岐阜】学生漁師 アユに魅せられ

2020/09/12

長良川漁協正組合員 岐阜の堀さん
水産会社への就職目指す

 岐阜市の長良川を管轄する長良川漁業協同組合の正組合員として、大学生がアユ漁に精を出している。「魚を捕る喜びを知ったら、もうやめられない」と魅力を語る堀年希(かずき)さん(21)=岐阜市蔵前=は、一生魚と関わっていけるよう水産会社への就職を目指している。(藤原啓嗣)

 午前五時半。川のせせらぎと虫の鳴き声が周囲を包む中、堀さんが「手投網(ていな)」と呼ばれる網を放った。引き上げると、アユが四匹。思わず口元がゆるむ。

 長良川漁協に所属する組合員は約七百人。平均年齢は六十八歳と高齢化が進む。二十歳代は八人いるが、家族が組合員だったり、会社員と兼業したりしている人がほとんどで、学生は堀さんだけだ。

 組合員の中で、年間の漁業従事日数が三十日を超えるなどの条件を満たす人が正組合員になれる。名古屋経済大(愛知県犬山市)に通う堀さんは五月に漁が解禁されると、授業を終え、毎日のように川に向かう。夏休みには朝夕の二回、通う熱の入れようだ。

 幼い頃、家族旅行で郡上市の川に赴き、釣った魚を味わったのが魚を好きになった原点。高校生の時、友人と遊びに行った長良川で漁師と出会った。畳んでいた網が空中で広がって着水し、アユをからめ捕る様子に感動した。「自分もやってみたい」と漁師に申し出ると、「網を買ってこい」と言われた。すぐに網を手に入れ、ベテラン漁師のやり方を見よう見まねで学んだ。アユがいる場所を探す目も養いながら組合加入条件の十八歳になるのを待って入会。二〇一七年に正組合員になった。

 「アユは『バシャン』でなく『ピシャ』」。水面を跳ねる音で魚の種類を聞き分けられるまでになり、波紋だけでも水中の様子を推測できるようになった。狙いを定めて網を投げ、思い通りにアユを捕れることが漁の醍醐味(だいごみ)だ。「大量のアユが跳ねると川面からスイカみたいな香りがする。一番好きな瞬間です」

 今では、熟練の漁師とも情報交換できる間柄に。漁協の浅野彰吾事業課長が「名前は知らなくても、よく網を投げている若い子と言えばみんな分かる」と言うほど知られた存在だ。大学の課題でもアユの市況について取り上げ、「漁をしていて良かったことだらけ」と顔をほころばせる。

 現在は大学四年。卒業後も自分が川にいる姿しか想像できない。「長良川の近くから離れたくない。今の経験が役立つような水産会社に自分を売り込み、働きたい」と、古里とアユへの愛着は深まるばかりだ。

狙いを定めて網を放つ堀さん=いずれも岐阜市の長良川で
狙いを定めて網を放つ堀さん=いずれも岐阜市の長良川で
狙い通りにアユを捕った堀さん
狙い通りにアユを捕った堀さん