2008/08/19
「この七年で受け取った辞令は十四枚」
非正規教職員の交流インターネットサークル「T-pal」の主宰者で、愛知県の私立専修学校と公立夜間定時制高校を掛け持ち勤務する社会科非常勤講師、高橋祐介さん(29)は採用試験を受けながら勤務校を転々としてきた。挑戦九度目の今年も不合格だった。
非正規教員には、授業や学級担任などを正規教員同様にこなす「臨時任用教員(臨任)」などと呼ばれるフルタイムの常勤講師と、パートタイムで授業のみ受け持つ非常勤講師の二種類がある。高橋さんは後者だ。
非正規教員は今、教育の一翼を担う。だが、雇用が不安定な上に低賃金で生活に大きな不安を抱える。
常勤講師は月給制だが、非常勤は時給制や授業一コマ当たりの報酬が基本。授業を多く担当するしかない。「受験勉強に専念したいが、昼夜かけもちで働かねば生活できない」と高橋さんは言う。
二校兼務で手取りが月二十九万円にまでなった。だが一昨年には、疲労と悩みが蓄積してうつ状態に陥った。
和歌山県各地の公立高校で二十九年間家庭科を教えてきた非常勤講師の和歌真喜子さん(49)は現在、週に四校を掛け持ちし自家用車通勤する。「非常勤講師の交通費は一日上限が四百八十円。遠い学校に三日行くとガソリン代で、一コマの報酬二千七百八十円が消える」
香川県の公立小学校常勤講師の女性(54)は「十四年間、正規教員だった他県から来たが、キャリアが考慮されない。正規教員がすべき部活顧問や教育実習指導などもしているのに、月給は手取り十九万六千三百円で頭打ち」と打ち明ける。
「収入は常勤の場合、四十代後半で正規教員の三分の二程度。退職金もないため生涯賃金は一億円差がつく」と愛知教育大学非常勤講師の山口正さんは説明する。
雇用も不安定だ。地方公務員法で「臨時任用は一年を超えない」と定められているため、常勤・非常勤講師の同一校勤務は基本的に最長一年。正規教員の欠員と新年度の学級編成で必要な教員人数が決まるため、翌年度の働き口の有無は三月末まで分からない。
「不安。常勤は経験年数で採用試験の一次試験免除の特例があるが、非常勤にはない。人生設計なんて立たない」と前出の高橋さんはため息をつく。
さらにこんなケースも。大分県の元公立小学校常勤講師(31)は任用期間が「四月一日-三月三十日」と満一年に一日足りない。このため雇用保険法に定める失業手当受給資格を得られず、失業手当が出なかった。
教員定数は教員定数法で学級数により決められている。学力向上のための習熟度別少人数授業などきめ細かい教育を行う自治体が増え、少子化にもかかわらず学級数は微増。教員定数も増えている。
一方、人件費などを賄う学校教育費は一九九八年をピークに減少を続け、正規の採用枠を増やせない。限られた予算で人材確保するために、重宝がられている存在が非正規教員だ。
文部科学省によると昨年度の国公私立を合わせた小中学校教員に占める常勤講師の割合は14・0%。山口さんは「統計にでない非常勤を含めると、『五人に一人は非正規』が現場実感」と指摘する。
非正規教員は「使い捨て」のワーキングプア職種といえる。さらに、雇用問題は教育そのものにも支障を来している。
(井上圭子)
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