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【社会】リーマン 今度はコロナ 氷河期世代 再び職失う 「派遣の宿命」ため息

2020/06/10

コロナ解雇2万933人 派遣切り 再燃か

 新型コロナウイルスの影響で解雇や雇い止めを受けたとする日本人労働者から労働団体への相談が増え始めている。5月中は外国人からの相談が主体だった。派遣社員ら非正規労働者からが大半で、「派遣切り」が横行し雇用危機につながった2008年のリーマン・ショック後の状況に近づきつつある。(谷悠己、写真も)

 「ショックで2、3日の間、眠れなかった」

 愛知県尾張地方の自動車部品工場に勤める派遣社員の男性(43)は先月末、6月末で仕事がなくなると派遣元の企業から告げられた。コロナの影響で休業する工場が増えていたので派遣先の変更は覚悟していたが、その数日後に担当者から受けた打診は想定外だった。

 「新規の職場が北陸地方に1件だけある。引っ越しを伴うので希望するなら3日以内に決断してほしい」。派遣元企業での勤務経験は長く信頼もされていると感じていただけに、有無を言わせない雰囲気に傷ついた。仕事は欲しかったが、住み慣れた愛知を離れることは選べず、6月末で契約を終えることを決めた。

 もともと故郷の東北地方の自動車部品工場で派遣社員をしていたが、リーマン・ショック後に失職。製造業が強い愛知県ならば仕事が見つかるのではないかと考えて09年に引っ越し、現在の派遣元企業に採用された。しばらくは不況期が続いたが、東日本大震災後の一時期を除いて仕事を失ったことはなかった。

 高校を卒業して社会に出たのは1996年。バブル崩壊後の雇用不安から生まれた「就職氷河期」が新語・流行語大賞にノミネートされた94年の2年後にあたる。正社員の働き口は少なく、手取りのいい派遣社員で満足していた。「派遣をやっている以上、切られるのは宿命。今から思えば、何が何でも正社員にこだわって職探しをしていればよかったのかもしれない…」と唇をかむ。

 今ある貯金は20万円余り。派遣元との契約が切れる7月以降は寮を出る必要があるため、貯金を取り崩すなどしながら、新たな仕事を探すつもりだ。

 「もう若くないし、そろそろ体に負担がかからない職場で働きたいけど、コロナでどれだけ仕事が減るのか見通せない」。そう言って、深くため息をついた。

    ◇

◆コロナ解雇2万933人
◆派遣切り 再燃か

 厚生労働省は9日、新型コロナウイルス感染拡大に関連して解雇されたり、雇い止めにあったりした人は見込みも含め、5日時点で2万933人だと発表した。2週間でほぼ倍増した。4半期ごとの契約更新が多い派遣社員が6月末に本年度最初の契約満了を迎えるのに先駆け、法定期限の5月末に解雇通告が集中しているとみられる。

 業種別では、ホテルや旅館など宿泊業が4348人で最も多く、飲食業3484人、製造業2813人が続いた。

 都道府県別では東京が3164人で最多。東海地方は岐阜が409人、愛知が298人、三重が239人だった。

 5月25日から今月5日までに増えた雇用形態別の内訳も発表。非正規社員が計4943人で正規社員の4078人を上回った。

 集計は厚労省が全国の労働局やハローワークを通じ、事業所からの届け出として把握した人数。実際の解雇や雇い止めはさらに多いとみられる。

 愛知県労働組合総連合が6日に行った相談会では八件の解雇相談があり、「派遣元から退寮を迫られている」と訴える人もいた。市川浩相談員は「7月以降は寮を追い出される派遣社員が増え、リーマン・ショック後の『年越し派遣村』のような受け皿が必要になる恐れもある」と話す。