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【働く】どうなる格差 同一労働同一賃金/地方公務員 非正規同士で差

2020/06/01

期末手当 勤務時間が壁 週2日程度 「本格的職務」満たさず 

 正規職員との格差是正を目指し、4月から始まった非正規地方公務員の新制度「会計年度任用職員」。民間のボーナスに当たる期末手当が非正規職員にも支給できるようになったが、実際は一律支給とはいかず、非正規同士で差が生まれているようだ。多くの民間企業、地方自治体でボーナスが出る6月。本紙に寄せられた非正規職員の声を基に考える。(佐橋大)

 名古屋市の市立保育園に勤務する60代の女性保育士。月曜から金曜まで1日3時間、子どもの世話や掃除などをこなす。市との契約で定められた所定労働時間は週15時間で、給料は月7万円ほど。4月から会計年度任用職員になって期末手当を期待したが、支給はない。「責任を持って働いているのに」。園には他にも会計年度任用職員がいるが、もらえる人ともらえない人がいるという。

 市によると、週の所定労働時間が「15時間30分」を満たすかどうかが支給、不支給の分かれ目。根拠になっているのは、総務省が2018年10月に出した、会計年度任用職員に関わる運用マニュアル。その中では「一般に、週2日程度の勤務時間では、本格的な職務に従事するとは言いがたい」と明記。「週あたりの勤務時間が15時間30分未満の職員については、期末手当を支給しないこととする制度も想定される」とした。この文言を基に、期末手当の支給対象を決めた自治体は多いとみられる。

 同市の正規の保育士の所定労働時間は1日7時間45分だ。保育園は通常、11時間以上開いている。勤務時間をずらすなどしているが、正規の保育士だけでは対応し切れない。それを補うのが、短時間勤務のパート職員だ。市立保育園九十九園で働く会計年度任用職員は、調理員を含め約2000人。そのうち、所定の労働時間が週15時間30分未満、つまり期末手当が不支給の職員は約900人に上る。市保育運営課は「限られた時間しか働けない人の協力も得て保育は成り立っている」と認める。

 女性は、期末手当を巡る非正規同士の格差に加え、マニュアルで勤務時間数が「本格的な職務」でないとされたことについて「園児の顔色に変化はないか、けがをしないかなど、他の人と同じように常に気を配っている」と反論する。

 民間では、正規と非正規の不合理な待遇差を禁止する法制度が4月から強化された。もし待遇が違うと、非正規労働者らから理由を求められた場合、雇用主には説明する義務があるが、地方公務員法にこうした規定はない。非正規公務員の問題に詳しい北海学園大経済学部の川村雅則教授(労働経済)は「なぜ差が生じるのか、非正規同士でも納得のいく合理的な説明が必要」と指摘する。

 勤務時間数による差は、退職手当にも影響する。退職手当が支払われるのは、正規職員並みにフルタイムで働く会計年度任用職員だけ。東海地方の学校で事務として働く50代の会計年度任用職員は4月から、フルタイム扱いの1日7時間45分の勤務時間を、7時間に短縮された。他にも「勤務時間などを減らされてフルタイムからパートタイムの扱いになった」「フルタイムで働ける募集が減ったため、同じ自治体で働くのをあきらめた」といった声もあった。

 川村教授は「仕事内容を精査せず、時間数だけで機械的に手当を支給しない状況は、非正規公務員の働く意欲をそぐ」と忠告する。そうなれば、住民サービスの質の低下にもつながりかねない。もう一つ懸念されるのは、民間の職場での非正規雇用者の処遇改善に、悪影響を与える可能性だ。「決して地方公務員だけの問題でない」と注意を促す。

「働きが認められていないようで、悲しい」と話す非正規の女性保育士=名古屋市内で
「働きが認められていないようで、悲しい」と話す非正規の女性保育士=名古屋市内で