中日新聞CHUNICHI WEB

就職・転職ニュース

  • 無料会員登録
  • マイページ

【社会】愛知の軽症者施設 入所ゼロに 療養の在り方 考える時 離職中 「潜在看護師」も活躍

2020/05/29

 新型コロナウイルス感染症の軽症者を受け入れる愛知県東浦町の「あいち健康プラザ健康宿泊館」で25日、残っていた1人の陰性が確認され、4月9日の開設以来、初めて入所者がゼロになった。これまでに89人が入所し、県職員や医療関係者が健康観察や生活の支援を続けてきた。職員らは流行の第二波への対応を念頭に「課題や教訓を次につなげたい」と語る。(安藤孝憲)

 施設の事務局として使うイベントホールの一角に5月23日朝、夜勤と日勤の職員が集まり、引き継ぎ事項を確認していた。同日時点の入所者は2人。開設時から関わる県医務課の看護師、藤井博子さん(54)は「最大42人が同時にいた時期を思えば落ち着いた。医療職に限らず多くの人の連携で難局を乗り越えられた」と振り返る。

 施設には県の医師会や病院協会が医師や看護師を交代で派遣した他、県看護協会は資格を持つがさまざまな事情で離職している「潜在看護師」を臨時採用。入所者の体調確認や食事の受け渡し、退所後の部屋の清掃、PCR検査をする医師の補助を主に担ってきた。

 日進市の女性看護師(47)もその一人。夫の海外赴任などで4年ほど一線を離れていたが、医療現場の苦境を見聞きし「居ても立ってもいられなくなった」。入所者と直接接触する場面は限られるため「患者に寄り添う看護師本来の仕事はできなかった」としつつ「重症者を治療する病院の負担を減らせたなら、誇りに思う」と語った。退所時に「ありがとう」の置き手紙を残した男性もいたという。

 課題もあった。大半の入所者は一時的な入院を経て来ていたため「肺の画像診断をして」「(治療薬候補の)アビガンを飲ませて」などの要望は多く、ホテル並みの待遇を求められて困った場面も。同じく臨時採用の春日井市の女性看護師(31)は「施設の位置付けが必ずしも認識されていなかった。入所者の不安も理解でき、軽症者の療養の在り方は社会でもう一度考えるべきでは」と指摘する。

 滞在を不満に思った入所者が自主的に退所してしまう事例も四月下旬に起きた。県はその後、施設を新型コロナウイルス特措法に基づく「臨時医療施設」に指定。感染者の強制的な入所を法律上可能にした。

 埼玉県では四月、軽症と診断されて自宅療養中だった2人が死亡。藤井さんは「病状急変や家族間感染のリスクも考えると、医療者らの支援がある施設療養が望ましい」と考える。感染者が減りつつある今だからこそ「反省点、改善点を整理し、今後に備えたい」と話す。

 愛知県は安城市のホテルでも軽症者5人を受け入れた。全員の陰性が確認され、現在は運用を中断中。健康プラザでは当面の間、受け入れ態勢を継続する。

 一方、県内の医療機関には27日午後6時現在で15人が入院している。重症者はいないという。

    ◇

◆中部他県も準備

 愛知以外の中部各県(岐阜、三重、長野、福井、滋賀)もホテルを借り上げたり、宿泊室がある公共施設を活用したりして軽症者向けの療養施設を準備している。医療機関に入院後、重症化リスクが低いと判断された人を主に受け入れ、陰性化までの経過観察に当たってきた。

 岐阜県は4月中旬に羽島市内のホテルを借り上げ、5人を同月末まで受け入れた。大垣市や恵那市など地域ごとに受け入れ可能な体制を整えている。福井県も福井市内のホテルを借り上げ、家族間感染のリスクを減らすため、感染者に加え、濃厚接触者で健康観察中の人も受け入れ対象にした。

 新型コロナウイルス感染症は約八割の感染者が軽症か無症状とされる。厚生労働省は当初、軽症の場合は「自宅か宿泊施設で療養」としていたが、自宅療養中に死亡する事例が相次ぎ、4月23日に「原則は宿泊施設で療養」と方針を転換。都道府県に引き続き施設確保を求めている。施設での療養にかかる費用は公費で負担される。

入所者の体調などを確認し合う愛知県医務課の藤井博子さん(左)と臨時雇用の看護師ら
入所者の体調などを確認し合う愛知県医務課の藤井博子さん(左)と臨時雇用の看護師ら
入所者のPCR検査の検体採取に向かう医師(左)らの防護服着用を手助けする看護師=いずれも愛知県東浦町のあいち健康プラザで
入所者のPCR検査の検体採取に向かう医師(左)らの防護服着用を手助けする看護師=いずれも愛知県東浦町のあいち健康プラザで