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【暮らし】パワハラ防止の義務化、6月に施行 指導との違いに曖昧さ

2020/05/25

 企業にいじめや嫌がらせなどのパワハラ防止を義務付ける改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)が6月1日に施行される。企業の責務を明確にしてパワハラを防ぐのが狙いで、厚生労働省は1月、何がパワハラに当たるかの具体例も示した。一方で労働組合関係者からは、例示を都合よく解釈し、パワハラを否定する会社も出てくるのではないかと懸念する声も聞かれる。

 「きついノルマを達成できないと厳しく叱責(しっせき)される」「同僚から無視される」。愛知県労働組合総連合(愛労連)の電話相談に届いたパワハラ相談の事例だ。昨年、こうしたパワハラ関連の相談は227件。竹内創事務局長代行(52)によると「ここ数年、賃金、労働時間に次いで多い」と話す。厚労省によると、各地の労働局に寄せられる相談は2012年度から、パワハラに当たる「いじめ・嫌がらせ」がトップで、18年度は8万件を超えた。

 厚労省の指針は、パワハラを(1)優越的な関係を背景に(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により(3)労働者の就業環境が害される-の3つ全てを満たすものと定義。「身体的攻撃」「精神的攻撃」などパワハラを六つの型に分け、「物を投げつける」「人格を否定するような発言をする」といった例をそれぞれ挙げた=表。

 事業者に義務付けられたのは、パワハラの禁止を就業規則などに示すことや、意識改革のための社内研修などを行い、相談体制を整えること。相談があれば事実関係を確認し、加害者の処分や、被害者と引き離す配置転換など再発防止策を講じることが求められる。

 ただ、パワハラは正当な指導との線引きが曖昧だ。16年、厚労省が全国約2万社に行った調査では、71%が「パワハラかどうかの判断」を難しさに挙げた。今回、具体例が示されたが、竹内さんはかえって心配する。「働き手が訴えた内容を、『パワハラに当たらない例』に当てはめて認めない会社が出てくる可能性がある」と言う。

 指針は、行為が業務の限度を超えているかの分かれ目は「平均的な労働者の感じ方」とする。ただトラブルに至った経緯なども考慮が必要で、単純ではない。

◆管理職の萎縮、意思疎通で防ぐ

 パワハラを巡っては、管理職が部下への必要な指導をためらう例も。16年の厚労省の実態調査では「気になることがあっても注意することを控える」と回答した管理職が11%いた。

 社会保険労務士法人名南経営(名古屋市中村区)所属の社会保険労務士、永原大樹さん(29)は「何がパワハラに当たるのか、価値観を共有することが大事」と強調する。永原さんは年間50回以上、パワハラなどに関する研修の講師を務める。管理職を集めた研修では、グレーゾーンの事例を基に議論し、客観的に判断する目を養う。「萎縮の原因は不安。どんな行為が不適切かが共有できれば萎縮も減る」。一方、若手向けの研修では、言いたいことが言えない管理職の悩みを紹介。適切な指導を受けられなければ、将来的に自分たちが不利益を被ることもあり得ると理解を促し、若手から歩み寄る姿勢も必要と説く。

 萎縮すると、関わりを避けようとコミュニケーションが減りがちだ。しかし、永原さんによると、普段から密に意思疎通をすることが、パワハラ防止の鍵という。相手の人となりが分かっていれば、その人に適した指導ができるからだ。永原さんは「パワハラやその疑いのある行為は生産性を下げ、人材流出にもつながる」と指摘。「『懲戒の対象だから』ではなく、パワハラをなくして働きやすい職場を目指すという考え方が大事」と訴える。

 (佐橋大)