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【暮らし】<どうなる格差 同一労働同一賃金> 在宅勤務、派遣はダメ?

2020/05/18

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、在宅勤務の導入が進む。一方、派遣社員ら非正規社員だけが出社を求められる例が目立つ。急な対応が必要だった今回は、各社とも社内の仕組みが整わなかった面はあるが、当事者からは「待遇差別」と不満が漏れる。正規と非正規の間の不合理な格差をなくすための「同一労働同一賃金」制度が四月に始まったが、改めて立場の弱さが浮き彫りになっている。

 「一言いいたい、派遣社員は在宅勤務ダメなの?」。四月後半、東京都内の金融機関で働く派遣社員の女性(32)はSNSに不満をぶちまけた。四月七日の緊急事態宣言を受け、派遣先では「原則、在宅勤務」の方針が決まったが、女性は認められなかった。

 社員約四十人のうち派遣社員は女性一人だけだ。経理の担当で、請求書の作成など顧客の個人情報を扱うため、全てを在宅でこなすのは難しい。それも踏まえ「情報入力など家でできる仕事と、会社でしかできない仕事を分けて出勤頻度を減らしたい」と提案した。

 しかし、人事から返ってきたのは「派遣は時給で働いているのに、自宅でサボられたら誰が責任取るんだ」という言葉。半数以上が在宅で働く中、毎日出社しているが納得できない。「派遣先のビルでは四月上旬に感染者が出たのに。健康よりも、損得か」。結局、六月末の契約終了を待たずに辞めるつもりだ。

 「総合サポートユニオン」や「派遣ユニオン」など個人で加入できる労働組合には、在宅勤務が認められない非正規の相談が寄せられている=表。民間の調査機関「パーソル総合研究所」が四月、全国二万五千人を対象に実施した調査では、正社員のテレワーク実施率が27・9%だったのに対し、非正規は17・0%にとどまった。

 派遣ユニオン書記長の関根秀一郎さん(55)は「非正規の中でも、相談が多いのは派遣社員」と話す。背景には、派遣特有の雇用関係がある。派遣社員は、人材派遣会社から紹介された派遣先の指示に従って仕事をするが、雇用主は派遣会社。派遣会社は、派遣社員が安心して働けるよう、派遣先に働き掛ける責任がある。ただ、派遣先は顧客でもあるため「派遣先の事情が優先されやすい」と話す。

 こうした点は国も問題視する。「同一労働同一賃金」を掲げ、四月に施行された改正労働者派遣法では、社員と派遣社員との待遇面での不合理な格差を禁止した。厚生労働省の担当者は「正社員と同じ業務や責任を負っているのに、派遣社員だけ在宅勤務を認めないのは同一労働同一賃金に反する恐れがある」と指摘。さらに同法は、派遣先に適切な就業環境の維持を義務付けており、感染リスクを避ける配慮が求められる。

 人材大手の「パーソルホールディングス」(東京)は「派遣だから在宅勤務が認められないことはない。最大限、派遣先と調整している」と話す。ただ、派遣社員には押印が必要な書類作成など、出社が前提の事務職の人が多い。加えて「就業場所の変更や個人情報の持ち出しを許可するのにも手続きが必要になる。派遣先で事前に仕組みが整っていないと、すぐ対応できない面もある」と認める。

 関根さんは、派遣会社の役割や国による啓発の重要性を挙げる。労働組合や各都道府県の労働局など官民とも相談窓口を設けてはいる。しかし「職場で居づらくなるため、派遣社員自ら声を上げるのは難しい」と理由を話す。

 (添田隆典)