2009/01/29
型取りで3回も失敗
忠臣蔵で知られる吉良上野介義央が領内を回るとき乗ったとされる赤馬。その姿を表した練り物「吉良の赤馬」は、郷土玩具として三百年以上も受け継がれている。八代目の継承者、井上裕美さん(43)を西尾市の自宅工房に訪ね、弟子入りさせてもらった。
「湿気の少ない冬に作りためたほうがいい」という馬の胴体作りに挑戦した。材料は、でんぷんのりとおがくず。鍋にでんぷん粉と水を入れ、火にかけながらかき回す。水気がなくなると、粘り気が増し、しゃもじを持つ手が重くなった。
「耳たぶぐらいの硬さがちょうどいい」と井上さん。ほどよい硬さになったら、すり鉢へ。おがくずを少しずつ加えながら練り、混ぜ合わせる。
おがくずを振りかけたのりを転がすように、こね続ける井上さん。見よう見まねでやってみたが、のりがすり鉢にくっついたり、すり鉢が動いてしまったり。額に汗が浮かぶ。「テンポよく、体重をかけて」と井上さんが教えてくれた。
こね続けて約一時間。ようやく材料が用意でき、型取りの作業に入った。使うのは、馬の形を彫り込んだ左右対称の木型。適量の材料を詰め、二つの木型を合わせると、赤馬の原形が出来上がる。
これが簡単に見えて難しい。少しのずれで左右非対称の不細工な馬に。「商品にならないよ」と井上さん。四回目でようやく原形作りに成功した。
馬の背や腹に残った余分な材料を竹べらで取り除き、指で形やひび割れを修正。一個を仕上げるのに四十分を要した。「もう一個作ってみる?」と井上さんに聞かれ「もういいです」と本音が出た。
この日の作業はここまで。さらに二カ月ほど乾燥させ、色塗りして仕上げる。一連の作業を一人で担う井上さん。「伝統を絶やすわけにいかないからね」(広中康晴)
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【メモ】特別な技術や知識がいるわけではなく、経験が頼り。井上さんは8代目を継いで4年になる。代々血縁で継承しているため、弟子を取ったことはないが「雇うなら、時給800円ぐらい」と井上さん。年間に約200個を生産している。
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