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【愛知】高齢者 経験生かせる場を 70歳就業法が成立

2020/04/04

先行し派遣で活躍の男性 「第2の青春充実」

 希望する人が70歳まで働けるよう企業に努めることを義務付ける高年齢者雇用安定法など関連法が3月末に成立し、2021年4月に施行される。働く意欲が高いシニア層からは歓迎の声が上がる一方、国の動きに先行して高齢者を活用する県内の企業からは「単に雇用を続けるのではなく、経験を生かして活躍する場の確保が重要」と指摘する声が聞かれる。(鈴鹿雄大、今村節)

 「企業にとって高齢者は戦力になり、定年延長はプラスだ」と話すのは、自動車部品メーカーを5年前に定年退職した元エンジニアの水野信太郎さん(70)=名古屋市東区。現在はバルブ・ポンプ製造の高砂電気工業(同市緑区)の派遣社員として、生産工程を自動化するシステム開発などを担い、「第2の青春が訪れたようで充実している」。同じ職場の海川康宏さん(45)は「経験に裏打ちされた技術や発想力に助けられてきた。若手の指導にも必要な存在」と頼りにする。

 水野さんが所属するのは、高齢者の人材派遣を手がけるシニア東海(同市熱田区)。県内のメーカーなど50社に110人を派遣している。スタッフの平均年齢は65・9歳、最高齢は77歳。同社の高江洲(たかえす)晋社長は「経験を生かして働き続けたいという人が多い」と話す。

 同じく高齢者の人材派遣などをしているワールドテック(同市中区)の寺倉修社長(68)は「高齢の労働者を受け入れる企業側のニーズは、豊かな経験と知識だ」と指摘する。同社には技術者OBら60~70代の約100人が登録し、顧客は自動車部品や家電メーカーなど約200社に上る。生産現場での助言や企業調査といった実務経験が求められる業務を広く手がけており、寺倉社長は「単なる労働力として扱わず、知恵を生かして社会に貢献できる場をつくることが必要だ」と強調する。

 「何歳まで仕事をしたいか」と尋ねた2018年11月の内閣府世論調査では、現在の年金受給開始年齢を超え、66歳以上も働きたい人が37・6%に上った。理由として経済的事情を挙げる人が5割を超えた。

 今回の法改正の背景を、中高年の労働事情に詳しいパーソル総合研究所の小林祐児主任研究員は「将来的な年金支給年齢の引き上げを見据えた動きだ」と分析。「日本の高齢者は国際的に労働意欲が高く、健康な人も増えている。(70歳就業法は)高齢者の選択肢が広がり、企業にとって雇用の仕組みを変える契機になる。単に長く雇用するのではなく、活躍の場をどう確保するかが課題だ。また、健康や老老介護などの問題をケアする仕組みも必要」と指摘する。

【高年齢者雇用安定法(高年法)の改正】 希望者全員の65歳までの雇用を義務付けた現行法を改正し、70歳までの就業機会を確保するよう努力義務を課す。選択肢は、定年の引き上げや廃止、継続雇用制度の導入、労使で同意した上での雇用以外の措置(業務委託契約、社会貢献活動の支援)。個人事業主やフリーランスとして委託契約した場合、労災認定を通じた救済が難航する懸念もある。

定年退職後、経験を生かして派遣社員として働く水野さん(左)=名古屋市緑区の高砂電気工業で
定年退職後、経験を生かして派遣社員として働く水野さん(左)=名古屋市緑区の高砂電気工業で