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【社説】就農支援 仕組みから変えないと

2009/02/05

 雇用危機の受け皿にと、就農相談会が各地で花盛りだ。日本の都市の繁栄は、農漁村から労働力を送る仕組みの上に成り立ってきた。その仕組みを変えないと、新規就農者の定着は難しい。

 農林水産省や都道府県農業会議が設置した就農相談窓口には、年末から年始にかけて三千件を超える問い合わせがあった。連合は、農林水産分野で約二十五万人の雇用が創出できるという。

 農業人口は激減し、耕作放棄地は急増中だ。しかし、江戸時代の「帰農令」まで持ち出して就農を勧めても、解決策にはなり得ない。バブル経済崩壊前後、全国農業会議所などに寄せられた就農相談は約六万件に上る。が、農業を始めた人は七百人しかいない。

 近代農業は「六次産業」とも呼ばれ、一人何役も要求される職業だ。生き物を扱う上に、天候や地理的条件に左右されやすく、広範な知識や経験も必要になる。腰を据えて働くには、十分な仲介、研修、就農後の支援が欠かせない。

 自営には、農地と住居の確保、資金や技術の取得が壁になる。農業外への安易な転用許可が問題視される一方で、個人が農地を買うにも借りるにも、農業委員会の許可が必要だ。耕作はしなくても農地を手放さない農家は多い。

 新規就農にかかる費用は、生活資金などを含めて平均千六百万円に上るともいわれるが、公的融資には一定の資格要件があり、新規参入者には敷居が高い。

 だが一方で、食の安全や自給率向上への関心は高まった。今度の雇用危機が浮き彫りにした問題点をクリアできれば、「農業」は雇用の受け皿にとどまらず、魅力的な選択肢になるはずだ。就農改革の好機には違いない。

 農地の流動化を促すには、まず情報の風通しをよくすることだ。

 全国の農地情報をデータベース化し、それを元に都道府県の農業普及課や農協が、積極的な仲介、あっせんに乗り出すべきだ。そして、その土地の風土に見合った資金、技術、生活面の支援態勢を、地域の金融機関なども巻き込みながら、都道府県、市町村単位で立て直す必要がある。 

 農業生産法人を大規模化して雇用を増やすのも、農地法に制約される。農業外への転用に歯止めをかけるルールを整備しながら、企業の出資規制や、株式会社の参入を原則禁じた農地取得制限の緩和も、考えなければならない時期が来た。