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【暮らし】再設計はできるか・氷河期世代のいま(下)支援は手厚いが

2020/03/09

 1月下旬、ハローワーク梅田(大阪市)。市内の女性(43)が向かったのは、バブル崩壊後に社会に出た就職氷河期世代が対象の「35歳からのキャリアアップコーナー」だ。昨年6月、政府がこの世代への就労支援を打ち出したのを受け、翌7月に開設された。1年以上、短期の仕事を繰り返している人、非正規の仕事が多い人らに的を絞る。

 大きな特徴は1人1人に担当の相談員がつくこと。支援内容は、いわばオーダーメードだ。女性は1995年に高校を卒業。事務として就職したが、業績悪化の影響で5年後に退職。以降、事務職に狙いを定めてきたが年齢とともにハードルは上がるばかり。派遣の契約が切れた今は無職だ。

 この日、女性が相談員から勧められたのは、コンピューターによる機械部品の設計や製図が学べる公共職業訓練。事前の適性検査で手先の器用さ、空間を認識する能力の高さが認められたためだ。技術が身に付けばメーカーなどへの就職に役立つ。女性は「意外な提案」に戸惑ったが、今のままでは展望はない。6カ月間の訓練を受けると決めた。

 支援はこれにとどまらない。訓練後は窓口に定期的に来てもらい、履歴書の書き方から面接の受け方までを細かく指導する。勤め先が決まるまで相談員が求職者に寄り添う格好だ。梅田では1月までに、利用した222人のうち40人が正社員の夢をかなえた。窓口担当の市山小織・統括職業指導官は「氷河期世代の人に欠かせないのは長所を見つめ、自信を取り戻すこと」と指摘。梅田のような窓口は全国のハローワークに順次設置されている。

 企業側の動きはどうか。厚生労働省によると、ハローワークに登録された「氷河期世代限定」の有効求人は1月末時点で1167件。運輸業が609件と最多で、131件の医療・福祉、114件のサービス業が続く。担当者によると、タクシー運転手や介護職、警備員など慢性的な人手不足に悩む業種が目立つという。加えて、複数のハローワークは「専門的な知識や技術を一から教育するなら若い世代が欲しいのが、企業の本音」と話す。

 こうした現状を受け、政府の支援策は、10月をめどに資格取得コース創設を明記。フォークリフトの免許やエンジニア資格、簿記検定などを想定する。具体的な仕組みや内容は今後詰めるが、業界団体と連携し就職もあっせんする予定だ。

 政府が支援に乗り出した背景には、有効求人倍率が2018年平均で過去2番目に高1・61倍、昨年もそれに次ぐ1・60倍を記録するなど雇用情勢が一定程度回復したことがある。今後3年間で、氷河期世代の中から正規雇用を30万人生み出すのが目標だ。

 ただ、この世代にはニートやひきこもりの状態の人も40万人程度いるとみられる。氷河期世代の問題を研究する労働政策研究・研修機構の堀有喜衣主任研究員は「こうした人の社会参加に向けた支援も必要で、3年では足りないこともある」。その間に再び景気が後退すれば、企業の採用意欲は落ちる。既に今、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う消費の落ち込みなどが景気を直撃している。

 「政府に求められるのは息の長い支援だ」

 (添田隆典)

氷河期世代の支援窓口で求職相談をする女性(手前)=大阪市北区のハローワーク梅田で
氷河期世代の支援窓口で求職相談をする女性(手前)=大阪市北区のハローワーク梅田で