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【暮らし】<再設計はできるか・氷河期世代のいま>(上) 国が就労支援本腰

2020/03/02

 「就職氷河期を経験している皆さんは人の気持ち、痛みが分かると思う」。2月上旬、人材派遣大手「パソナグループ」(東京)であった中途採用説明会。担当者の言葉に聞き入るのは、バブル崩壊後の就職難の時代に社会に出た人だ。担当者は続ける。「その経験をぜひ生かしてほしい」

 1993~2004年に高校や大学を卒業した30代半ばから40代後半の就職氷河期世代に対し、政府が就労支援を打ち出したのは昨年6月だ。総額650億円をかけ、今後3年間で正規雇用者を30万人増やす目標を掲げる。対象となるのは、正規雇用を望みながら非正規で働く50万人と家庭などの事情で求職活動ができないといった50万人の計100万人程度だ。

 政府の施策を受けた形の同社は、来年3月までに300人を正社員として順次採用する。年収は400万~600万円。これだけ規模が大きい正社員の募集は例がないため、会場を埋めた男女30人の表情は真剣だ。

 その1人、群馬県高崎市の女性(39)が高校を卒業したのは1999年。事務職を希望したが、高卒でも応募できた会社は初任給が10数万円。結局、地元のスーパーに就職して7、8年働いたが、やりがいが持てずに辞めた。その後、「頑張れば正社員になれる」と言われ、アパレル店員に。しかし、2008年のリーマン・ショックでかなわなかった。今は派遣の仕事をしながら、アルバイトの母親(66)と暮らす。非正規は業績の波を受けやすく、時給は1300円の時もあれば、1000円ほどになる時も。

 人材派遣で伸びてきた同社の氷河期世代支援には懐疑的な声もある。しかし、女性は「安定したい。この年齢で正社員になれるなら」と意気込む。同社によると、1月から東京と大阪で開いている説明会には、既に定員の2倍を超える640人が参加したという。

 ハードルが高いのはどこも同じだ。兵庫県宝塚市の採用試験には3人の枠に1800人が殺到。10人を募集した厚生労働省の試験には1900人が手を挙げた。国の支援が本格化し、他省庁や全国の自治体で採用試験が順次実施される4月以降も似た状況が予想される。

 こうした現実に、つらい記憶がよみがえる人も。03年に東京都内の難関私立大を卒業した男性(40)は新卒の就職活動時、百社以上を受けた。だが、内定はゼロ。「資格ぐらいないと」という厳しい言葉に打ちのめされた。

 卒業後は契約社員として深夜に荷物の仕分けの仕事をこなしつつ、昼間は公務員になる勉強を続けたが、受からなかった。27歳で不動産会社に就職できたものの、直後にリーマン・ショックが襲った。再び不安定な立場に戻った。

 厚労省の18年調査によると、30代後半~40代前半の非正規雇用者の平均給与は30代後半が月22万9000円、40代前半が22万4000円。同年代の正社員に比べ12万~15万円少ない。男性は格差を埋めようと株に手を出して失敗。ショックでうつ病を患い、この1年半は療養を余儀なくされた。

 落とされ続けたこの20年間で、すっかり自信をなくした。国の支援はチャンスのようにも思えるが、正直、足がすくむ。「目立った資格も経験もないまま、年だけを取ってしまった」

     ◇

 氷河期世代の人たちに対する国の支援が、4月から本格的にスタートする。しかし、「これまで見放されてきた」という思いが強い当事者を救うのは、簡単ではない。安定した雇用を取り戻すには、どんな支援が求められるのか。(添田隆典)

インターネット上で氷河期世代向けの求人を検索する男性=東京都内で
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