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【暮らし】テレワーク、国も呼び掛け 五輪混雑緩和、災害時も有効

2020/02/03

 大会期間中、世界中から観客やボランティアら約1千万人が押し寄せると予想される東京五輪・パラリンピック。移動が通勤時間帯と重なれば、交通は大混雑となる。このため、国や東京都は大会に向け、自宅など会社以外の場所で働く「テレワーク」の導入を企業に呼び掛けている。テレワークは期間中の混雑緩和だけでなく、公共交通が止まるなどする災害時にも役立つとして注目される。

 地上37階にあるオフィスから見下ろすと、五輪の選手村が目と鼻の先だ。東京都中央区晴海に本社を構えるウェブ制作会社「メンバーズ」。車で10分ほどの場所には人気の体操、バレーボールの会場もある。

 最寄りの都営地下鉄大江戸線勝どき駅から本社までは数100メートルだが、オフィスビルが密集。駅の乗降客数は1日10万人を数え、会社に着くには普段でも20分かかる。「五輪中は、もっと大変になる」と執行役員の米沢真弥さん(39)。開会式当日の7月24日から閉会式の8月9日まで、本社と都内2カ所の支社への出社を原則禁止し、テレワークを導入すると決めた。

 昨年夏、15日間にわたって本社への出勤を禁じて実施した予行演習には、約五百人が参加した。もともと社員のパソコン内のデータは全社で共有している上、情報を外部に漏らさないための仕組みも厳重なため問題はなかったという。

 始業、終業の時刻は、毎日パソコンに入力する。メリットは残業時間の減少に表れた。通常時、1人当たりの月平均残業時間は15時間だが、社を挙げてのテレワーク実施中は12時間に。「残っている社員に退社を合わせる『付き合い残業』が減ったため」と米沢さんは言う。自宅に幼い子どもがいるなど在宅勤務が難しい社員が使えるよう、約100万円で千葉や埼玉などに場所を借りたが、残業代や社屋の水道・光熱費などが減ったため、負担増は約20万円で済んだ。

 同社は昨年から、希望すれば誰もがテレワークができる制度を始めたが、これほど大きな規模での実施は初めて。広報の上野晴菜さん(26)のように「誰とも顔を合わせないのは、予想以上に寂しかった」という不安の声もあったため、五輪中は予行演習時に設けた飲食費の補助制度の活用を呼び掛けるなど家が近い社員同士の交流を促す考えだ。

 国は2017年から、開会式が行われる7月24日に近い期間を「テレワーク・デイズ」に設定。在宅勤務を呼び掛けてきた。昨年7月22日~9月6日の運動中は全国2千887団体が実施、約68万人が参加。東京23区の通勤者は、直前と比べて1日平均26万8千人も減った。さらに、都が首都圏の約2千400社に尋ねたところ、期間中のテレワーク導入を検討していると答えた企業も44%に上った。

 ただ、情報漏えいや設備の不備などを理由に、五輪といった特殊な事情がなければ導入に積極的な企業は多くない。総務省によると、18年の導入企業は19・1%。多様な働き方を勧める国が目指す「20年に34・5%」にはほど遠い。導入企業も情報通信業など一部業種に偏りがちだ。

 そうした中、テレワークの強みに目が行ったのは、首都圏を台風15号が直撃した昨年9月9日。JR東日本などの在来線が計画運休したのを受け、リコー(東京都大田区)は社員に自宅待機を指示した。同社は16年からテレワークを導入。当初は育児や介護をする人らに限っていたが、働き方改革の一環で、18年からは全社員が月10日まで取れるように変更した。

 普段からの経験が生き、指示への対応はスムーズだった。パソコンを持ち帰っていた社員の多くは在宅勤務に切り替えた。テレビモニターを見ながら会議を開くなどした広報室の松田さやかさん(34)もその1人。「台風の中、無理に出社することなく、自宅で仕事ができて効率的だった」と振り返る。同社も大会中は本社を閉鎖、約2千人がテレワークをする予定という。

 (細川暁子)

五輪時のテレワークに向け、本社と支社をつなぐテレビ会議で打ち合わせをする「メンバーズ」の社員=東京都中央区で
五輪時のテレワークに向け、本社と支社をつなぐテレビ会議で打ち合わせをする「メンバーズ」の社員=東京都中央区で