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【暮らし】<環境視点> エコ通勤、会社も奨励

2020/01/27

 日本人が平日に移動する理由の3分の1を占めるとされる通勤。通勤手段を、マイカーから自転車や公共交通機関に切り替えれば、温室効果ガスの削減につながる。こうした「エコ通勤」を広めようと、実行した人に会社独自のポイントを与えたり通勤手当を上乗せしたりするなど、雇う側もさまざまな工夫を凝らしている。

◆ポイント付与

 仕事用の作業服に身を包み、ヘルメットにサングラス姿。「愛車」にまたがって現れたのは、愛知県豊田市の建設会社「小野組」の今田博幸さん(62)だ。10キロ離れた市内の自宅から、自転車で30分をかけて通勤している。

 27人が働く同社では自転車や電車、バス、マイカーの相乗りなど、環境負荷の少ない方法で出勤した社員に対し、独自のポイントを付与している。名付けて「オノポイント」。距離に関係なく、自己申告で片道1ポイント。1ポイント50円で計算し、毎年4月に1年分の現金を手渡している。通勤手当とは別だ。

 こうした取り組みを始めたのは10年ほど前。「中小企業でも環境に貢献できることはないか」と考えたのがきっかけという。今田さんは「老後を見据え、足腰を鍛えよう」という理由でバイク通勤から自転車に切り替えたという。気候のいい時季は毎日、冬場は控えるなど無理のない範囲で続け、昨年度は186ポイント、9300円を獲得した。「家族とおいしいものを食べるのに使った。やった分だけポイントが増えてやる気が出る」と笑顔。楽しんだ結果が、環境保護につながっている。

 似た取り組みをする公的機関も。同県の豊橋市役所は2010年度から「とよはしエコ通勤運動」をスタート。2キロ以上25キロ未満の距離を自転車で通う職員に対し、通勤手当を上乗せしている。金額は、距離によって3段階に分かれる。例えば5キロ以上8キロ未満の場合、マイカー通勤者の月4100円に対し、自転車は9200円と倍以上。このほか、電車やバスなど自転車以外のエコ通勤をしている職員には、職員互助会が1カ月当たり300円のクオカードを支給している。

 市によると、本庁舎で働く職員のエコ通勤の割合は18年度、65・7%、運動開始前の09年度の39%から大きく増えた。エコ通勤による18年度中の二酸化炭素(CO2)削減効果は380トンと推計している。

 環境省によると、17年度、日本の家庭一世帯当たりのCO2排出量は年間4・48トン。そのうち、マイカーから出るCO2が占める割合は23・3%と、暖房や冷房の使用による排出より多く、全体の4分の1を占める。1人1人がマイカー通勤を控えれば、環境負荷は抑えられることが分かる。

◆国も認証制度

 エコ通勤を広めようと、国土交通省と交通エコロジー・モビリティ財団(東京都)が事務局を務める協議会は09年度、積極的に取り組む会社などを「優良事業所」として認証する制度を創設した。開始から10年を経て、小野組や豊橋市役所を含め認証を受けた事業所は昨年12月時点で757カ所にも。マイカー通勤の禁止や相乗り制度、自転車通勤者への補助、駐車場の有料化などの取り組みが対象で、認証事業所は活動内容を毎年報告。認証は2年ごとに更新される。財団によると、働き方改革が進む中、退社時間を早め、公共交通機関を使いやすくする試みも増えている。

 名古屋大大学院環境学研究科の加藤博和教授(49)=低炭素都市交通戦略=は「日本と違い、欧州ではガソリン税が高いなどマイカーよりも公共交通機関を使う方が支出が減る仕組みになっている」と指摘。田舎になるほど、公共交通機関のダイヤも不便だ。加藤教授は「始業時刻とバスの到着時刻を合わせるなど、会社が公共交通の利用を意識した取り組みをすることが有効」と話す。

 (河郷丈史)

「自転車通勤は季節の移り変わりも感じられる」と話す今田さん=愛知県豊田市で
「自転車通勤は季節の移り変わりも感じられる」と話す今田さん=愛知県豊田市で