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【暮らし】<新時代の働き方 広がるフリーランス>(上)好きな時に稼ぐ

2019/11/18

 10月下旬の夜、東京都世田谷区のマンション。勤め先から帰宅した男性(44)は、スーツを脱ぐと、サイクリングウエアに着替えた。さあ、「出勤」だ。愛用のマウンテンバイクで街に繰り出して数分の午後八時、スマートフォンが鳴った。

 ピコン、ピコン…。

 「お、注文だ」。今いる場所から数100メートル離れた外食チェーン店「大戸屋」の名前が、地図とともにスマホの画面に表示された。店でできたての弁当を一人前受け取り、配達用のバッグに詰める。今度は4キロ離れたマンションの住所が表示された。弁当の届け先だ。帰宅途中の人が行き交う大通りを抜け、男性はそのマンションへ。依頼を受けてから配達完了まで30分足らず。またスマホが鳴った。今度は、モスバーガーだ。「幸先がいいや」

 日中は営業マンとして働く男性のもう一つの顔は、自転車やミニバイクを使う料理の宅配サービス「ウーバーイーツ」の配達員。背中の黒や緑の箱形バッグに品物を詰め、店から指定先まで届けるのが仕事だ。

 ウーバーイーツは、米国のIT企業「ウーバー・テクノロジーズ」が展開するサービス。客は専用アプリを使い、チェーン店から個人店まで、自前の配達員を持たない飲食店を中心に1万4千店舗のメニューから料理を注文できる。注文が入ると、ウーバーが店の近くでアプリを起動させている配達員を検索、スマホに知らせる仕組みだ。

 日本では2016年9月に東京で始まり、大阪や名古屋、福岡など10都市以上に広がった。配達員は約1万5千人。1人1人が独立した「個人事業主」で、18歳以上であればインターネット上で登録できる。あとは好きな時にアプリを起動させ、注文を受けられる状態にするだけだ。

 決まった就業時間もなければ、人間関係のしがらみもない。どれだけ働くかは自分次第。報酬は店から配達先までの走行距離と配達した件数で割り出され、働いた翌週に振り込まれる。配達員として登録する人は、男性のようなサラリーマンから学生、自営業者などさまざまだ。

 世田谷区の根本貴祥(たかよし)さん(41)は、配達員として登録して2年半。本業は自宅で仕事をするグラフィックデザイナーだ。午前中に2時間ほど配達してから仕事を始める日もあれば、仕事を終えた後、夜3時間ほど配達する日もあるという。このペースで週3~4日配達すると、週1万~3万円の収入に。「趣味の自転車を生かせる」のが大きいが「空き時間にやれて、生活費の足しになる」と満足げだ。

 午後11時すぎ。男性はアプリを閉じて、この日の業務を切り上げた。3時間で10軒の配達をこなし、収入は約5千円。会社の許可を得た上でこの仕事を始めて1年だが、「時間の縛りがないから、勤めながらでも続けられる」。配達をするのは、平日の夜や土、日曜が中心。「雨の日はぬれるからやらない」と言うように、働き方を自分で決められるのが魅力だ。「運動不足が解消できるし、稼いだ分だけ体重も減る」とにっこりする。

 一見すると、何とも理想的な働き方だ。しかし、配達員の間では、ウーバー側に改善を求めるうねりが広がりつつある。

        ◇

 終身雇用制が崩れ、働き方が多様化する中、インターネットなどを介し、個人で仕事を請け負う「フリーランス」に注目が集まる。会社に縛られず、自分の裁量で働けるのが魅力だが、業務中のけがの補償など働き手の立場は不安定だ。自由な働き方を巡る現場の動きを追った。
 (添田隆典)

箱形バッグを背負い、街中を走る配達員の根本貴祥さん=東京都渋谷区で
箱形バッグを背負い、街中を走る配達員の根本貴祥さん=東京都渋谷区で