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【暮らし】客からの悪質クレームでストレス 「カスハラ」から従業員守れ

2019/10/07

 サービス業や小売業などの現場で、客からの悪質なクレームに従業員が追い詰められる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が問題になっている。被害に遭った人の中にはストレスから精神疾患になったり、離職を余儀なくされたりする人も。このため、「消費者第一」の考えが根付く業界の中でも毅然(きぜん)とした対応を取る企業が出てきた。ただ、正当な苦情と悪質なクレームとの線引きは容易ではない。

 「混雑しているレジで、『レジが進まないのはおまえのせいだ』と怒られ続けた」「商品の案内をしていたら、お尻を触られ『年、いくつ?』などと聞かれた」「持ち帰りの天丼のタレが車のシートにこぼれたと、クリーニング代2万円を要求された」…。

 流通業やサービス業などの労働者が加盟する日本最大の産業別労働組合「UAゼンセン」が2017年と18年の2回にわたって実施した悪質クレームのアンケート。飲食店の接客や販売・レジ業務、病院や介護現場で働く約8万1000人から寄せられた回答は、客の暴言やセクハラなどに苦しむ声が多くを占めた。

 「業務中、迷惑行為に遭ったことがあるか」との問いに、「ある」と答えたのは約72%に当たる5万8000人で、うち約9割がストレスを感じたと回答。精神疾患にかかっていた人も約600人いた。さらに、4割以上の人が「近年、迷惑行為が増えている」と感じている一方で、「謝り続けた」「何もできなかった」との回答も4割を超えた。

 UAゼンセン流通部門の事務局長、西尾多聞さん(52)によると、例えば「殺す」といった明らかな脅迫行為があった、あるいは商品の不具合を指摘された場合などは、それぞれ警察やお客さま相談室に委ねるなど対応がしやすい。だが、怒鳴るなど犯罪に問えるかどうかの行為については現場任せになりがちだ。小売業、サービス業は企業規模にかかわらず人手不足が続く。「お客さんが納得するまで耐えるしかないとなれば、さらに離職が進む」と懸念する。

 ただ、企業の中には従業員を守ろうと取り組むところも。タクシー業界大手の国際自動車(東京都)は16年、客の暴言や嫌がらせが目に余る場合、運転手や会社の判断で車を降りてもらい、警察に通報すると約款に明記。菓子メーカー165社でつくる業界団体「日本菓子BB協会」は昨年、異物混入のクレームは現物がなければ対応しないと内規を変更した。

 厚生労働相の諮問機関、労働政策審議会(労政審)は昨年、顧客からの著しい迷惑行為は「人権侵害にもなり得る無視できないもの」と認定した。半面、法規制については、正当な苦情と度を越えた嫌がらせは線引きが難しい、対象が絞りにくいなどとして、企業が取り組むべき相談対応の在り方を、国が明確化するよう求めるにとどめた。

 大阪府警の元刑事で、クレーム対応コンサルタントの援川聡さん(62)は、カスハラに従業員が耐えざるを得ない背景には、SNSの浸透もあるとみる。「対応を誤れば一気に拡散する」と指摘。今のままでは現場の負担が重すぎるとして、理不尽な要求に対しては法的な対応も検討するなど、会社として対応することの必要性を訴える。

 不備があった際に客が意見をすることは、商品やサービスの向上を図るには必要な行為だ。UAゼンセンの西尾さんは「どこからが悪質なクレームか業界が統一した基準などを出せれば、消費者の意識も変わる」と説明。「サービスを受ける側と提供する側が同じように尊重されるのが望ましい」としている。

 (添田隆典)