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【暮らし】職場でも自分で備えを 帰宅困難想定、水や食料など保管

2019/08/28

 いつ起きてもおかしくないといわれる南海トラフや首都直下などの大地震。社会人が一日の多くの時間を過ごす職場や、通勤中に被災する恐れもある。ただ、社員向けの備蓄などをしている会社はまだ少ない。9月1日の「防災の日」を前に、職場でも1人1人が自らの身を守れるように備えたい。

 職場の机の下に置く避難用品セット、滑りにくく長時間歩きやすいビジネスシューズやパンプス、モバイルバッテリーを搭載したキャリーケース-。

 名古屋市中村区の名鉄百貨店で9月3日まで開かれている「防災フェア」。毎年恒例の非常食に加え、今回初めて職場向けの防災アイテム約40種を集めた。

 企画した紳士営業部の中瀬古真嗣さん(35)は2011年3月、当時勤めていた東京の別会社で東日本大震災に遭った。鉄道は運行を停止。余震も続く中、中瀬古さんは「歩いて帰るのは危険」と、鉄道が再開するまで九時間ほど職場にとどまった。だが、職場に備蓄の食料はなく「自分の命は自分で守るしかない」と痛感。「職場が一時的な避難所となることを意識した備えが必要」と力を込める。

 平日の日中に起きた大震災。首都圏では中瀬古さんのような帰宅困難者が推定515万人に上った。南海トラフ巨大地震が発生した場合、愛知県では最大93万人の帰宅困難者が出ると予測されている。

 国は対策のガイドラインで、大地震で交通機関が止まった場合は従業員を社内に待機させるよう会社に求め、3日分以上の水や食料などを備蓄するよう促している。しかし、帝国データバンクが5月に全国の9500社に尋ねたところ、防災備蓄を含む事業継続計画(BCP)を定めているのは、わずか15%だった。

 元小中学校教員で、防災教育に詳しい近藤ひろ子さん(68)=愛知県東浦町=は「会社に備蓄があっても、すぐに配られないこともある。自分の席に最低限必要な物を用意して」と呼び掛ける。通勤中や外回り先での被災に備え、かばんや車に、食料などを常備することも推奨。「あめ1、2粒だけでもエネルギーになる」

 オフィス家具メーカーの内田洋行(東京都中央区)は東日本大震災後、机の下に置く防災備蓄ボックス「そなえさん」を開発。耐久性のあるスチール製で、最大3日分の水や食料などを収納できる。震災で帰宅困難者となった有志の女性社員20人が考案した。

 リーダー役だった大島利佳さん(56)は「アレルギーや常備薬、コンタクトなど、個別の事情に合わせて準備することが大事」と強調。大島さんは好物の菓子のほか、乾燥米飯も入れ、普段から食べて買い足している。「食べ慣れた味は日常を取り戻せる。1人1人が備えることで職場全体の防災力も高まる」と話す。

 (平井一敏)

机の下に置く避難用品セット(手前)など、職場向けの防災アイテムを紹介する中瀬古さん=名古屋市中村区の名鉄百貨店メンズ館で
机の下に置く避難用品セット(手前)など、職場向けの防災アイテムを紹介する中瀬古さん=名古屋市中村区の名鉄百貨店メンズ館で
水やお菓子など、机下の備蓄品を紹介する大島さん=東京都中央区の内田洋行で
水やお菓子など、机下の備蓄品を紹介する大島さん=東京都中央区の内田洋行で