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【暮らし】<副業?その前に>(下)研究員・萩原牧子さんに聞く

2019/08/21

 労働時間を管理するのが難しく、過重労働につながる恐れが指摘される副業。一方で、収入増のほか、自身のキャリアを高める機会にもなる。副業を含めた多様な働き方について詳しいリクルートワークス研究所(東京)主任研究員、萩原牧子さん(44)は「今は就業規則で副業を禁じている企業が多いが、やりたいと思った人が自分の意思でできる社会になれば」と話す。

 ―今、なぜ副業を解禁する必要があるのか。

 少子高齢化が進み、労働人口が減っている。人材が限られる分、現代はイノベーション(技術革新)が起こりにくい。これまで一つの会社で囲い込んでいた人材を、社会全体で生かす必要がある。

 「人生百年時代」といわれる中、働く側は定年退職後も働き続けることを想定しないといけない。例えば、ずっとやりたいと思っている仕事を副業にすれば、離職することなく、次のキャリアへの準備ができる。

 ―副業への関心が高まっている。

 リクルートワークス研究所が2019年に会社員らを対象に実施した「全国就業実態パネル調査」では、28年中に1カ月でも副業をした人は正社員で10・4%、副業をしたいと思っている人は36・1%もいた。とはいえ、就業時間外は自由。働き方改革で減った残業時間を、副業でなく、家族と過ごす時間に充ててもいい。自分で選べる社会がいいと思う。

 ―副業のイメージが変わってきている。

 同じ調査の複数回答で、副業を考えている正社員の目的を見ると、「生計を維持するため」と答えた人は60・9%。一方で、「新しい知識や経験を得るため」と答えた人も23・6%に上る。本業での低い所得を補うために内職などを掛け持ちするという従来型の姿から、自らの成長の機会ととらえる人が増えている。

 ―副業を希望する人は、何から手をつければ?

 本業で成果を出せているか、今の労働時間は適正なのかを確認することが大事だ。すでに長時間労働になっているなら、副業を始める段階ではない。副業を始めても大丈夫か、健康状態もチェックしてほしい。

 副業先を選ぶ際は、自分で労働時間を管理できる職場を選ぶことが大事。募集に「短時間でOK」とあっても、実際には人手が足りないからと「もう少し働いてよ」と言われる可能性もある。インターネットで「副業」と検索すると、「短時間で高収入」などとうたうサイトが多く出てくるが、本業を探す時と同じように慎重になる必要がある。

 ―自己管理ができない人には難しそうだ。

 一社だけで働いている時は、労務や健康管理は会社に任せられる。しかし、副業を始めると、その分は自分でやらないと。社会人としての基本も身についていない新卒が副業を始めるのには大反対だ。入社して数年がたち、自分の将来を描けるようになってからだ。

 ―副業のメリットは。

 労働者からすると、社外の多様な人と議論して仕事を進める経験は、大変だが本業にも生きるはず。大企業にいると仕事の一部だけを担うことが多いが、例えば副業で起業するなどすれば仕事全体が見渡せる。

 企業の本音は、やはり「本業に専念してほしい」だと思う。半面、副業解禁を含め柔軟な働き方を認めることで、優秀な人材を集めたいと考える企業もある。ただ、個人と違い、企業にとって副業解禁の効果が目に見えるようになるには時間がかかるだろう。

 (出口有紀)

 <はぎはら・まきこ> 1975年、大阪府池田市生まれ。大阪大大学院博士課程修了。2001年にリクルートに入社。06年から、リクルートワークス研究所調査設計・解析センター長として、個人の就業選択や多様な働き方について、研究や提言を行う。厚生労働省が17年に開催した「柔軟な働き方に関する検討会」の委員も務めた。

萩原牧子さん
萩原牧子さん