2008/08/20
1万分の1ミリ 金箔と格闘
いつの時代も見る人を魅了する、黄金の輝き-。五万石の旧城下町岡崎を中心に三百年の歴史を持つ伝統工芸・三河仏壇は、ふんだんに金箔(きんぱく)を使う「金仏壇」で有名だ。幸田町大草の都築仏壇店で、この道四十三年の都築一三さん(65)に教わり、欄間の金箔押しを体験した。
足を踏み入れると、工房は蒸し風呂のような暑さ。真夏でもエアコン、扇風機は厳禁という。三寸六分(十一センチ)四方の正方形の24金箔を箱から取り出してみて、理由がわかった。厚さ一万分の一ミリで、重さは〇・〇二グラム。わずかな風でもひらひらと舞い上がってしまうのだ。
ほおから汗を滴らせる都築さんの鮮やかな手つきに見入った。木彫りの鳳凰(ほうおう)に、タヌキの毛でできたはけで接着剤を塗る。適量を残して綿でふき取った後、複雑な凹凸のある羽根や頭に手早く金箔を張り付けていく。
見慣れぬ金の輝きと暑さに鼻血が出そうな記者も挑戦した。巨大なピンセットのような竹製の「箔はし」で、そっと金箔をつまむと…くしゃり。荒くなった鼻息のせいで、すぐにしわくちゃに。焦って広げようとすると、今度は粉々になった。「破片は集めて再利用するから心配ないよ」。都築さんの穏やかな表情に安心して作業を続けたが、手つきはぎこちない。仕上げは師匠にお願いした。
都築さんが余分な金をはけで払うと、つややかな黄金の鳳凰が現れた。
「ご先祖様を大切にしたい、というお客さんの思いは裏切れない。百年後の職人が見ても恥ずかしくない仕事をしたい」。汗をぬぐう武骨な手の下で光る目が、伝統を担う責任感に燃えていた。(中野祐紀)
◇
三河仏壇は、三河仏壇振興協同組合所属の「八職」と呼ばれる木地、宮殿、彫刻、金物、漆塗り、蒔(まき)絵、箔押、組立の各職人が協力して作る。組合の委員の検査で伝統工芸品の証紙が張られ、価格は500万-1000万円が多い。見習い職人の初任給は12万-15万円。師匠の下で約7年間修業し、独立を目指す。
転職・求人情報検索(名古屋市・愛知県・岐阜県・三重県)はトップから