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【暮らし】就活セクハラに用心を OB訪問やマッチングアプリ

2019/04/24

 就職活動中の学生が、OB・OG訪問などの際に、企業の担当者からセクハラを受ける事例が相次いでいる。個人的に何度も連絡をされるなどした結果、その企業への不信感や嫌悪感が消えない人もいる。学生優位の売り手市場は続くが、選考過程では弱い立場になりがちな学生が被害に遭わないための方法、採用する企業側の注意点などを探った。

 リクルートスーツを着た学生たちが、企業の内定を求めて街を歩き回るこの時期。静岡県内に住む派遣社員の女性(26)は、大手住宅メーカーの支店に勤める男性からの度重なる電話に悩まされたことを思い出す。

 女性は当時、愛知県内の大学4年生。電話は、職場見学を申し込んだ直後に携帯からかかってきた。男性は20代で営業担当だったが、女性はリクルーターと思い、丁寧に対応した。

 しかし、「彼氏はいるのか」「ご飯に行かない?」など採用とは関係のない質問が続き、何度断っても連絡が来た。「エントリーシートに書いた住所や経歴、顔写真などの個人情報が全て知られているかもと思うと怖かった」と話す。

 結局、企業の人事部に被害を報告し、選考は辞退した。女性は「本命の企業ではなかったが、内定を確保したくて電話に出てしまった。内定が欲しい学生は弱い立場。それを利用するなんて」と話す。

 実際の業務内容や雰囲気を、働いている人から直接聞ける利点は大きい。学生向け就活サイトを運営するマイナビ(東京都千代田区)が昨年五月、大学4年と大学院2年を対象に行った調査では、4人に1人がOB・OG訪問を経験。そうした中、最近は学生と企業の社員を仲介するスマートフォンのマッチングアプリも人気だ。半面、アプリを悪用した被害も相次ぐ。2月には大手建設会社の男性社員が女子学生を自宅に連れ込みわいせつ行為をしたとして逮捕された。

 売り手市場の今、企業が説明会を開いても、学生はなかなか集まらない。アプリは使わないにしても、OB訪問やリクルーターによる1対1の採用活動に力を入れる会社もある。ただ、「中身は社員任せの企業が多い。セクハラやパワハラについては無頓着だった」と、学生の就活事情に詳しいジャーナリスト石渡嶺司(れいじ)さん(44)は指摘する。

 年間約1000人の就活生と話をするという石渡さんによると、採用側の権限が強かった1990年代の就職氷河期は、面接の場などできつい言葉を投げ掛けられるといったハラスメントがよく見られた。一方、売り手市場の今は、被害件数自体は減っているものの、セクハラの被害が深刻化している印象があるという。「社会人側には『成人同士だし許される』という甘えがある。でも、学生は選考と思っており温度差がある」

 学生が身を守るには、日中から夕方、相手が勤める会社に近い喫茶店などを選ぶ。夜、居酒屋などに誘われても、無理に飲まされそうになったり密室に誘われたりしたら、すぐに逃げることが大事だ。被害に遭った時は、警察や大学のキャリアセンター、企業の人事担当へ相談する。「採用が駄目になっても、売り手市場の今はいろんな企業がある。次の被害者を出さないためにも訴えてほしい」

 一方、企業や採用担当者は、就活生が将来の顧客になりうる可能性を自覚しないといけない。「学生は、『自分が会った社員=企業の代表』と考える」と石渡さん。「軽率な言動は会社にも大きなダメージを与えることを認識してほしい」と呼び掛ける。

 (出口有紀)