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【暮らし】<心の不調 防ぐには>(上) 重症化したうつ病

2019/04/03

 不眠続きで、気がふさぐ。そんな状態がしばらく続いた。鋼材関係の会社に勤めていた名古屋市港区の二宮大光(だいみつ)さん(49)は昨年一月、心療内科のクリニックで、うつ病と診断された。

 結果を会社に報告しようと電話を持ったが、手が震えた。上司に体の不調を相談し「(仕事をどうするかは)自分で決めて」と素っ気なくされたことがあり、追い詰められるような気持ちになった。

 八月末まで休職したが回復はしないまま。使える休みがなると、規定で二十五年勤めた会社を退社するしかなかった。以前にも三人が同じ事情で辞めていた。

 二宮さんに変調が表れたのは、人手不足で元々担当していたシステムの仕事に現場の安全管理が加わってから。帰宅時間は午後六時半ごろから、午後十時ごろになった。しかし、タイムカードはなく、上司は仕事量を把握しておらず、残業代も支払われなかった。

 休日出勤や出張も増え、家族と過ごす時間がなくなった。それでも、上司からは「成果が出ていない」と叱責(しっせき)された。インフルエンザに罹患(りかん)しても「誰もいない夜中に来て仕事するよね」と言われた。評価査定給が下がり、ボーナスも減った。頑張っても認めてもらえず、疎外感が募り、毎日二時間ほどまどろむ程度にしか眠れなくなった。

 それからは、難なくこなせていた仕事の手順が思い出せなくなり、スケジュールを把握できなくなった。家族でディズニーランドに出掛けたことすら、記憶から消えた。うつ病に伴う記憶障害だった。

 今は回復の兆しが見えてきたが、ねぎらわれることもなく辞めざるを得なかった会社のことを思い出したり、通勤と同じ道を通ったりすると、動悸(どうき)が激しくなり、体が震える。理由なく涙が流れたり、大きな音にパニックを起こしたりもする。妻のみゆきさん(41)が運転する時速八十キロの車から飛び降りようとしたこともあった。みゆきさんは「会社がもう少し病気を理解して、仕事の量を減らしてくれたら」と唇をかんだ。会社側は「コメントを差し控える」としている。

 愛知県東浦町のヨガインストラクター野崎麻里さん(45)が不調を感じたのは、印刷関係の会社に勤めていた二十六歳のとき。新規プロジェクトに参加するため、親会社へ出向した。帰宅が深夜になり、睡眠は浅く短くなった。食事が喉を通らなくなり、数カ月で十キロほど痩せた。毎日うなされ、夜中に叫び声を上げた。

 うつ病と診断され休職したが、出勤できない自分には「何の価値もない」との思いが募った。手首を切るなど自殺未遂を繰り返し、会社を辞めた。五、六年前から症状は落ち着いている。しかし、今も自分を否定する気持ちになることがあるという。

 三十年以上、産業保健に携わる保健師の嶋村美喜さん(52)は「時間の余裕がなく、不慣れな仕事で結果を残さなくてはならない新規事業の関係部署など、成果主義が強い職場では、メンタル不調者が出やすい。復帰には、ストレスの原因や対処法を本人が考え、それに即した働き方ができることが必要だ」と指摘する。

    ■  ■

 過重労働や職場の人間関係によるストレスから、うつ病になる人が増えている。苦しみながら働き続け、重症化してしまう人も少なくない。体験談を基に、そんな人たちをなくす方策を探りたい。

 (花井康子)

 <うつ病> 過剰なストレスなどが原因で、脳の機能に変調をきたし、自律神経系や内分泌系のバランスが崩れて発症する精神疾患。不眠や食欲低下、抑うつ気分など複数の症状が2週間以上続く。厚生労働省の患者調査によると、2017年10月のうつ病を含む気分障害の全国総患者数は127万6000人で、現行の方法で算出し始めた1996年以降で最多。

うつ病を経験した野崎麻里さん。体験を生かし、ヨガを教えている=愛知県大府市内で
うつ病を経験した野崎麻里さん。体験を生かし、ヨガを教えている=愛知県大府市内で