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【暮らし】<心の不調 防ぐには>(下) 誰もがかかり得る

2019/04/04

 「職場で安心して自分をさらけ出せたり、気兼ねなく発言できたりすれば、うつにならないかも」「コミュニケーションが活発だと、ちょっとした声掛けがしやすく、同僚の不調にも気付きやすいのでは」


 名古屋市中区で二月に開かれた講座「うつ病にさせないためのアドバイザー養成会」。二十四人の参加者が、うつ病を防ぐ職場環境について意見を交わした。


 講座では、うつ病の症状やメカニズムを学び、心拍変動を測定する機器で自律神経の乱れをチェックしたり、色彩を使って心理状態を把握するカラーセラピーを通じて理解を深めたりする。


 主催したのは「うつ病にさせないためのコンソーシアム」。一月に設立され、過重労働や人間関係によるストレスなどからうつ病になるのを防ぐための講座を開いている。代表幹事の時任春江さん(54)は「うつは誰でもなる病気。知識があれば、自分や周囲の人の不調に早く気付け、早期に手が打てる」と話す。


 講座に参加した愛知県長久手市の鈴木貴久江さん(50)は、「うつ病について理解が広がらないと(偏見などで)当事者は余計につらい思いをする」と、自身の体験から感じている。今後、講演会などを開いて、その経験を話したいという。


 鈴木さんがうつ病になったのは五年ほど前。十年以上訪問介護の仕事をしていたが、八十代の両親がほぼ同じ時期に認知症を発症。退職し、両親からアパート経営を引き継ぎ、両親の介護にも明け暮れた。「介護の仕事をしてきたのに、親には十分なことをできていない」と自分を責めた。胃の不調や食欲不振に陥り、活動的な性格だったのに「感情の起伏がなくなり、何も考えられなくなった」。


 心療内科では「抑うつ状態」と説明された。抗うつ剤や睡眠薬などを飲んだが改善されず、一日中、ソファに横たわった。「最初は自分がうつだとは受け入れられず、違うと思おうとしていたから治療が遅れ、悪化した」と振り返る。何もかもが嫌になって、自宅のベランダで首をつって意識不明になったが、家族が見つけて一命を取り留めた。


 投薬治療などで回復し、現在は症状は出ておらず、治療も受けていない。「心が弱いからうつになると偏見をもたれ、傷ついたが、脳機能の異常と知り、気持ちが軽くなった。ストレスは人それぞれ違う。不調を抱えている人に寄り添うことができたら」


   ◇ 


 「うつ病にさせないためのアドバイザー養成会」は今後も東京や名古屋などで開催予定。6月23日は名古屋市中区の日本特殊陶業市民会館、9月16日は東京都文京区の林野会館で。いずれも前10~後4。参加費1万5000円。(問)時任さん=電050(3591)1674

 (花井康子)

◆喪失体験なども発症きっかけに


 名古屋市立大大学院教授の明智龍男さん(54)=精神・認知・行動医学=は、うつ病について、仕事上のストレスのほか、大切な人との死別や、自身が重い病気にかかったときなど、喪失体験から発症する場合も多いと指摘。「完全に予防することはできないが、自分のメンタルヘルスに目を向けると、少しでもなりにくい環境をつくることはできる」と言う。


 「いったん、症状が治まっても再発するケースが多い。引き金になったストレスへの対処法を考えておくことが大切」と話す。


 治療の選択肢も広がりつつあり、投薬のほか、考え方や物事の見方に働き掛ける「認知行動療法」などの精神療法も、取り入れられるようになっている。

カラーセラピーなどを使い、うつ病について学ぶ講座の参加者たち=名古屋市中区で
カラーセラピーなどを使い、うつ病について学ぶ講座の参加者たち=名古屋市中区で