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【暮らし】<平成を語る> 高齢者を支える ケアマネジャー・服部万里子さん

2019/03/27

 家族が担ってきた高齢者介護は、2000年の介護保険制度導入を契機に「社会全体で支える」に転換した。多くの賛同を得て制度が始まって19年がたつが、家族の負担は減っていない。30年にわたって高齢者医療や福祉を研究する看護師で、ケアマネジャー(ケアマネ)の服部万里子さん(72)=東京=は、介護保険制度について「充実から崩壊に向かっている」と言う。

 高齢期の医療と福祉の充実は、昔から私たちが望んできたことの一つです。年を取って働けなくなったら、一人で体が衰えたら、どうするのか。以前は、親の介護は子どもの役割というのが一般的でした。しかし、昭和の後半には夫婦のみや一人暮らしの世帯が増え、これからも増えていく状況です。

 介護保険制度は当初、「保険料を負担しても将来の安心を得られるなら」と、大多数の人に受け入れられました。私も推進を訴えました。介護の専門職や施設が増え、利用者は必要なサービスを自分で決めて受けられる。家族にとっても、自分だけで介護を抱え込まなくて済みます。まさしく、充実した制度でした。

 ところが、介護離職や介護殺人はなくなっていません。それは、3年に1度の改定のたびに、使えるサービスが抑えられ、介護する家族の苦労や悩みが軽くならないから。

 例えば、在宅介護を担うヘルパーが滞在する時間はどんどん短くなり、利用者や家族からすれば、受けられるサービスが少なくなっています。家族の負担は増し、ヘルパーも息つく暇がなく、利用者とゆっくり向き合うことが難しくなります。

 昨年から、高齢者の介護予防などに成果を上げた市町村にインセンティブ(報奨金)が交付されるようになりました。すると、要介護者の状態は変わっていないのに、介護度が下がる例もよく聞くようになりました。必要なサービスを受けられなければ、家族が自分でやるしかない。そうなると、仕事を辞めなくてはならない人も出てきます。一度、離職すると40、50代で正社員として再就職するのは難しい。貯金を切り崩すと、自分の老後が崩壊します。負の連鎖です。

 多くの人が活躍する社会が目指される一方で、必要なサービスを受けにくくなっていき、家族が介護に縛り付けられる。これは、矛盾しているし、制度は崩れかけていると言っていい。

 人口減少が進み、働き手も減る40年を見据えて、消費税増税分を財源に、子どもから高齢者までの全世代をカバーする社会保障制度の構築が、目指されています。家族介護者の存在にようやく光が当たってきましたが、負担がさらに増えることにならないか、国民がしっかり声を上げていくことが大切です。

 (聞き手・出口有紀)

 <はっとり・まりこ> 早稲田大を卒業後、看護師資格を取得。1999年にNPO法人「渋谷介護サポートセンター」(東京都渋谷区)を設立し、2000年からケアマネジメント事業や相談、支援に取り組む。立教大教授などを歴任し、現在は一般社団法人日本ケアマネジメント学会理事、大妻女子大大学院非常勤講師などを務める。近著は「最新 図解でわかる介護保険のしくみ」(日本実業出版社)など。