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【暮らし】<平成を語る 仕事と生き方>サイボウズ社長・青野慶久さん

2019/03/25

 間もなく終わりを迎える「平成」の時代。この30年余にわたる時間は、私たちの暮らしに何をもたらし、何を変え、どこへいざなうのか。まずは、暮らしを成り立たせる基盤である「働き方」について、ユニークな取り組みを次々に打ち出しているソフトウエア開発会社「サイボウズ」社長の青野慶久さん(47)に聞いた。

 平成はITの時代でした。サイボウズを起業したのは平成九(1997)年。その2年前に「ウィンドウズ95」が発売され、インターネット環境が急速に整いつつあったころです。競争相手は数知れませんでした。

 仕事はいくらでもありました。日曜、祝日の午前中以外は仕事。帰宅後、玄関先で12時間ほど意識を失ったことも。本当に過激でした。

 でも、人生は長距離走のようなもの。長く走り続けることが大事です。それを一気にゴールまで突っ走る短距離走のように走れば、命を落とすこともあり得る。そうなれば顧客にも迷惑がかかります。

 予想以上に製品が売れ、12年には東証マザーズ、18年には東証一部に上場しました。でも、お祝いの席でも皆、疲れている。そこで考えたんです。仕事とは自分の幸せのためにやるもの、その幸せがあってこそ会社は成り立つんじゃないかと。

 人は皆、自分の理想を持っています。その理想が会社になければ、辞めるのは当然。事情は1人1人異なります。育児に介護、病気、家業…。「100人いれば、100通りの制度があってもいい」と思うようになりました。多くの他の会社がそうであるように、社員を同じルールの中に押し込めれば「公平」ではある。でも「幸福」とは限りません。

 17年、サイボウズの離職率は28%。それが25年には4%に激減。社員の要望を聞き、働く時間と場所を自分で決められる「働き方の選択制度」を導入するなどした結果です。20年のリーマン・ショックも「働きやすさに取り組む楽しい職場がなくなるのは困る」と皆がアイデアを出し、乗り切れました。

 少子化は次の時代も続き、人手不足は変わらないでしょう。事情のある人を活躍させられる会社の方が強いのは当然です。

 もう一つ、そういう人は介護や育児など社会を取り巻くさまざまな問題の当事者であることも多く、引き出しが多い。それを生かす方法を考え、変えていこうとしなければ、今ある大企業も縮小していくでしょう。

 個人も試される時代です。どういう働き方、生き方をしたいのか、自分で決めないといけない。禁じられていた副業・兼業が来月1日から、本格的に解禁されます。会社の中の知識だけでは新しい動きは起きにくい。これからは、外の知識にいかに触れるかが大事になってきます。

◆女性の社会進出進む

 働く時間や条件に制約のない、主に男性ばかりが優遇された昭和。平成は、女性や高齢者、障害のある人たちの働く機会を増やそうと、法律を整えていった時代といえる。

 特に、女性の環境は変わった。性別による職場での差別を禁じた男女雇用機会均等法が施行されたのは平成の少し前、昭和61(1986)年。平成30(2018)年の女性雇用者数は2671万人と元年の1・5倍に。子育てしながら働きやすい社会の実現を目指す育児・介護休業法の施行も後押しした。

 ただ、キャリアアップを目指す女性が家族を持てるかは不透明だ。労働政策研究・研修機構が従業員300人以上の企業を対象に行った26年の調査によると、課長級では男性の未婚率が9・8%なのに対し、女性は44・1%にも上る。

 障害者の雇用も、昨年、旗振り役であるはずの中央省庁による水増しが発覚。信頼を裏切る行為として大きな問題になった。

 一方で、働き方は確実に変わりつつある。流れをつくったのは、27年に電通の新入社員だった高橋まつりさん=当時(24)=が過労で自殺した事件。長時間労働の規制などを柱とする働き方改革関連法が昨年成立、4月から施行される。新しい時代は、働き方改革と成果を出す仕組みづくりが両輪になる。

 <あおの・よしひさ> 1971年、愛媛県今治市生まれ。大阪大工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現パナソニック)に就職。2005年からサイボウズ代表取締役社長。3児の父で、子育てにも積極的な「イクメン社長」としても有名。13~15年、中日新聞・東京新聞に子育てをテーマにした連載を執筆した。