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【暮らし】<介護と仕事> 両立の悩み、分かち合い

2019/01/30

 親の介護をしながら働く人の中には、職場で心無い言葉を浴びせられたなど、傷ついた経験がある人が少なくない。家と職場の往復で、コミュニケーション不足になりがちな介護者の心が軽くなるようにと、介護をしている人同士が集まって気持ちをはき出せる場所が少しずつ増えている。

 「いつも『お母さんの介護が大変』って残業もせずに帰るけど、仕事をサボりたいだけじゃないの?」。名古屋市の会社員女性(46)は、元同僚の女性に言われたひと言を思い出すと、悔しくて涙が出る。つい、仕事と介護の大変さの愚痴をこぼしたとき、返ってきた言葉だった。

 女性の母親(75)は2004年に脳梗塞で倒れてから認知症に。女性が32歳のときだった。きょうだいはおらず、父はすでに他界。母を自宅に1人残して仕事に行き、帰宅すると母がオムツをかぶって、髪の毛を便だらけにして笑っていたこともあった。

 08年に母は特別養護老人ホームに入所。しかし、その後も母をホームに世話してもらいながら、自分は会社の飲み会に行くのには罪悪感があり、行けなかった。同僚とのコミュニケーションは減る一方。冷たい言葉を浴びせられたのは、そんなころだった。結局、2年前に遠方の支社への転勤を命じられ、退社した。

 孤独な気持ちを支えてくれたのは、15年に入会した「認知症の人と家族の会」の愛知県支部(愛知県東海市)の仲間たち。同じように仕事と介護の両立に悩む人たちに、気持ちを聞いてもらうと楽になった。それでも最初は、「母を施設に預けているのに、自分だけ楽しい時間を過ごすことが、母に対して後ろめたかった」と言う。だが昨年、別の会社に転職して気持ちも前向きになった。「一度立ち止まって、将来について考える時間を持ったことが良かった。気持ちに余裕を持つことも、介護の一環だと思う」と話す。

 「介護をする人の心が軽くなるヒントを発信していきたい」。滋賀県の理学療法士・橋中今日子さんはそんな思いから、3年前に「介護者メンタルケア協会」(東京都)を立ち上げた。当時は、認知症で要介護4の祖母(97)、2年前に亡くなった母=当時(75)、重度の知的障害がある弟(44)の3人を1人で介護していた。

 協会を立ち上げる前は、病院に勤務。母が09年にくも膜下出血で倒れて寝たきりになり、介護休業を使って仕事を約3カ月休み介護に専念した。復帰後も作業所に通う弟や、デイサービスを利用する祖母と母を送り届けてから出勤。昼休みに食事作りや掃除のために帰宅する生活が続いた。仕事との両立が負担になり、母を介護しながら「このまま首を絞めたらどうなるかな」との思いが頭をよぎった日もあった。

 13年からブログで介護の大変さをつづり始めたところ、同様の相談が多く寄せられるようになった。介護する人らが情報交換し、つながれる場を目指して協会を設立。企業の人事担当者向けにもセミナーを開いたり、講演会を行ったりしている。

 先月下旬には、介護経験者らを対象にしたセミナーを都内で開催。橋中さんは「自分の介護の様子などを写真や動画で見せながら、周囲の人たちに大変さを分かってもらい味方を増やすのも一つの方法です」などと提案。「『介護に疲れた』と愚痴を言ったり、休日に出掛けたりすることは、わがままじゃない。自分の気持ちを吐き出して、自分自身をケアすることが介護をしている人には必要」だと呼び掛けた。

 (細川暁子)

介護者メンタルケア協会を立ち上げ、セミナーを開いている橋中今日子さん(中央)=東京都内で
介護者メンタルケア協会を立ち上げ、セミナーを開いている橋中今日子さん(中央)=東京都内で