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【暮らし】欠かせない職場の配慮 失語症の就労

2018/12/24

 脳卒中や交通事故などで脳の言語中枢がダメージを受け、話す、聞く、読む、書くことが困難になる失語症。患者には働き盛りの人も多いが、周囲との意思疎通が困難になるため、復職や再就労は難しい。当事者らでつくる団体の調査では、企業などの正社員で失語症になった人のうち、復職できた人は1割程度にとどまっている。

 岐阜県の男性(35)は2年前、運送会社で配達中に脳出血を発症。右半身まひと失語症になり、今年5月に退社した。

 周囲の話していることは理解できるが、話すと時折言葉に詰まる。会社からは事務での復職を打診されたが「あいさつされても、言葉が続かないかもしれない。電話に出ることも難しい」と断った。

 小学生の娘が2人いるが、世帯の収入は失業手当と、今冬から正社員として働き始めた妻の給料が頼り。同県大垣市の就労移行支援事業所「GCC大垣校」でパソコンの扱い方などを学びながら2年以内の就労を目指している。

 NPO法人「日本失語症協議会」(東京)が2015年に失語症の人を対象に行った調査(回答数約450人)によると、発症前に働いていた人で、発症後も何らかの仕事をしていた人は39%。だが、企業などに雇用されていた正社員に限ると、「元の職場に戻れた」のは12%で、復職後に仕事を続けられたのはその6割だけだった。

 同協議会副理事長の園田尚美さん(71)によると、失語症の人の復職は障害者の中でも特に難しい。電話や会議などが苦手な人が多く、自ら辞めたり、退職に追い込まれたりするケースもあるという。

 再就労にも壁がある。40代でくも膜下出血を患い、失語症となった岐阜県の元自営業の男性(57)は昨年、県内の公的機関に障害者枠でパートの事務職として雇われた。11年から求職活動を始めたが、6年間に30社以上の入社試験に落ちたという。面接で自己紹介を求められ、言葉が出ずに打ち切られたこともあった。

 新たな職場でも、当初は症状が同僚に十分共有されずに戸惑った。書類を他の部署に持って行くよう上司から口頭で指示されたが、書類の作成と誤解し、書類を作った翌日に間違いを指摘された。その後、指示は口頭だけでなく、必ず紙に書いてもらい、男性がその場で指示を読み上げて確認するように改善。以来、間違えることはなくなった。男性は「症状に合わせた配慮をしてもらうことで、働くことができる」と話す。

 また、協議会の調査では就労の難しさに比べ、福祉サービスを使える障害認定の厳しさを指摘する声も。身体障害者手帳は、失語症単独では6段階のうち3級と4級しかない。症状によっては手帳を受けられず、障害者雇用枠を利用できないケースも少なくない。

 園田さんは「まず、症状と必要な配慮を示した自分の“マニュアル”を作り、職場に伝えることが大切。その上で、職場は必要な配慮と環境整備をしてほしい」と話す。

◆HPで対応例を紹介

 失語症者の就労や職場での支援に向け、障害者職業総合センター(千葉市)は、失語症の基礎知識や会話する際の対応例=表参照=などをまとめたリーフレット「失語症のある人の雇用支援のために」をホームページで公表している。

 書くことが苦手な人には、こまめに声掛けをするなどのポイントを提示。当事者が利用できる相談、支援機関の一覧も掲載している。(問)同センター=電043(297)9067

 (山本真嗣)